■2004.1月号 vol.7 咳について
 今回は熱と同様、お母さんたちを悩ませる咳について考えてみましょう。咳は医学的には咳嗽と呼ばれ、乾いた咳(乾性咳嗽)と湿った咳(湿性咳嗽、俗には痰がからんだ咳)に分けられます。多くの場合、乾いた咳は上気道(咽頭、喉頭)、湿った咳は下気道(気管支、肺)の病気と考えてよいでしょう。しかし鼻水が多くなると喉のほうに落ちて、咳でかき混ぜられ、風邪でも湿った咳が出ることもよくあります。

 小さな子は、大人と違って意識して痰を出すことができません。その痰を出す反応として咳をしているのです。痰が多いのに、咳が出なくなったらどうでしょう。痰がたまってしまい、気道が狭くなり、呼吸が苦しくなるかもしれません。咳も熱と同じように、生体を守るための反応でもあると考えて下さい。咳の状態によっては、時期が来るまで、多少我慢することも必要です。

 咳がひどい時には充分な水分を補給するように言われます。咳がひどくなると飲めなくなったり、咳で吐いたりするため、体の水分が不足しがちです。そうなると痰の水分も減って固くなり、排泄しにくくなります。痰を柔らかくして排泄しやすくするために、処方された薬をちゃんと飲ませ、充分な水分を補うよう心がけましょう。空気が乾燥しすぎないように注意し、咳の発作には冷たい水を飲ませたり、空気を入れ換えたりすることも有効な場合があると、覚えておくと良いでしょう。咳を上手にコントロールするには、症状にあった薬を服用するだけでなく、環境や水分にも充分気を配りましょう。

 さて、咳が続くとお母さん方の心配として「喘息」という言葉が浮かんできます。外来でも、咳が続くと「喘息でしょうか」と聞かれます。

 それでは喘息というのは、どういう病気なのでしょうか。簡単に言えば、気管支の先端の部分が、炎症を伴って狭くなる病気です。咳だけが症状の場合もありますが、多くはゼーゼーやヒューヒューして、息が苦しくなるのが特徴です。咳が続いても、喘息とは限りません。勝手な判断をしないで、小児科で診断してもらうことが大切でしょう。

 次に、咳止めについて話しましょう。咳止めは大きくふたつに分けられ、ひとつは脳に働いて咳を止め(中枢性鎮咳剤)、もうひとつは気管支に働いて咳を止め(末梢性鎮咳剤)ます。前者は、普通の咳止めとして処方され、市販の風邪薬にも含まれています。しかし喘息の発作に、中枢性鎮咳剤を使わないことは、案外知られていません。喘息で咳が出るのに、どうして使わないのでしょう。喘息発作の時に使うと、咳が止まって痰が排泄しにくくなり、気管支の内腔が狭くなり余計苦しくなってしまうからです。このように薬の種類によっては危険な場合もあるため、単に咳が止まらないと言って咳止めを乱用することは慎まなければなりません。咳の意味を理解して、薬は決められたとおりに服用することが大切です。


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2004.11月号 vol.15 アトピー性皮膚炎 その一
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2003.7月号 vol.2 夏カゼ/夏に多い皮膚の病気
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