インフルエンザはインフルエンザ・ウイルスによって起こる、冬に流行する感染症の一つです。症状はウイルスの型によって多少異なりますが、典型的な経過は急激な発熱・頭痛・関節痛・筋肉痛・全身倦怠などで始まり、その後、鼻水や咳が次第にひどくなっていきます。発熱は39〜40℃の高熱のことが多く、2〜3日から1週間程度続くことがあります。咳は時間の経過とともに、ひどくなります。他に嘔吐・腹痛・下痢などの消化器症状が見られることもあります。中耳炎や肺炎などの合併率が高く重症化することもあります。潜伏期間が1〜2日と短いため、家族や集団生活で短時間で広がることが特徴です。老人の肺炎と乳幼児の脳炎・脳症が大きな問題となり、重症度や生命的予後を考慮するとカゼとは違う病気と考えた方がいいでしょう。
従来、診断の根拠は臨床症状と周囲の流行情況でした。成人では典型的な症状を示し診断は比較的容易ですが、乳幼児では症状があまり典型的でないことが多く、普通のかぜと区別できない場合がほとんどです。血液の検査は、急性期には役立ちません。近年インフルエンザ用の迅速診断キットが開発され、わずか10〜20分程度で診断することが可能になりました。のどや鼻の中を綿棒で擦って検体を採取して、ウイルスを検出する方法で、かなり正確に診断が可能となりました。
2000年にA型B型両方に効果がある薬剤が認可され、インフルエンザに対する治療は一変しました。この新しい薬剤は2種類で、吸入薬のザナミビル(リレンザ)と経口薬のオセルタミビル(タミフル)です。ザナミビルは主として成人用として用いられ、オセルタミビルは成人用の錠剤以外に小児用の顆粒が2002年秋から使用できるようになりました。両者とも成人や児童・幼児を中心に使用され、充分な効果が確認されています。抗ウイルス剤はウイルスの増殖を抑える薬なので、早く使うほど効果が高く発熱から48時間以内であれば効果が期待できます。発熱は、服用後1日で40%、2日目では80%が改善されます。時間が経つと効果が無くなるので、インフルエンザが疑われるときは早めの受診を心がけましょう。
もう一つ脳炎・脳症と解熱剤の関係が取りざたされています。両者の関係については充分解明されていませんが、重症な合併症なので危険性を減らすことが大切なことです。脳炎・脳症の発症した例で多く使われている解熱剤の使用を、見合わせるよう警告もでています。特にジクロフェナクナトリウム(ボルタレン)は小児での使用は禁忌と考えられるよになり、メフェナム酸(ポンタール)も原則として使用しないことになりました。現在、比較的安心と考えられている解熱剤はアセトアミノフェンですが、解熱剤の使用は、熱による苦痛を取り除くことを目的として、必要最低限に使うことが原則です。
毎年話題になるインフルエンザワクチンにも、少し触れておきましょう。高齢者に対するワクチン接種が平成13年11月から法律によって予防接種を行う病気に指定されました。高齢者における有効性は、疑いようの無いところです。ワクチンを接種により、肺炎で死亡する高齢者の数が減少しているという事実があります。しかし、乳幼児に対する有効性に関する充分なデータは無く、現在研究されているところです。様々な条件によって異りますが、有効率は約70%程度と考えられています。治療法の進歩はありますが、インフルエンザにかかってからしか治療はできません。症状が重いというだけでなく重症の合併症からも、予防策の一つとしてワクチンも考慮したいものです。 |