かわむら こども クリニック NEWS  平成13年4月号


怪我してわかったこと

−良い患者とは−
 皆さんに御迷惑をおかけしたことを、まずお詫びしたいと思います。お陰さまで、診療できるようになりました。今回はこの経験で得た、患者さんの立場について考えてみましょう。
 3月18日スキーで転倒して、足にかなりの激痛がありました。余りの痛みでしばらく立ち上がることができませんでしたが、ふもとまでもう少しということもあり痛みに耐えながら、やっとの思いでロッジに辿り着いたのです。家内が迎えにくることになり、しばらくロッジで20〜30分程待っていたのですが、痛くて歩けなくなってしまいました。そういえば転倒した時「ボキッ」と音がしたような気もして、骨折という言葉が頭をよぎりました。救急病院でのレントゲンで、案の定骨折の診断でした。翌日別の診療所で診察を受け「手術が必要」と診断され、総合病院を紹介されました。病院での診断では、逆に「手術は必要無い」と判断されました。ここで自分が急に患者の立場となり診療所と病院の判断に違いに、はたと困ってしまいました。いったいどちらの整形外科医の判断が正しいのか、小児科医では決められるものではありません。幸い知り合いの整形外科医に相談して、初めて手術が必要ということになった次第です。最終的な診断までの気持ちは、全く患者さんと同じです。一体どちらを選択すればいいのか、どちらが自分の将来に明るさを与えるのか、休診になれば患者さんに迷惑がかかる、休日当番は大丈夫だろうかなど、大きく心が揺れ動いたことは確かです。最終的には、手術をしないで将来問題が起こった時後悔しないよう、手術を受ける決意をしたのです。
 手術が無事終わり、麻酔が切れる頃から次第に足の痛みが強くなってきました。何とか我慢していたのですが、痛みはどんどん強くなってきます。自分の性格なのか医師という立場なのか、「この程度の痛み(骨折の経験はありません)でナースコールを押していいものか」、「看護婦さんは他の仕事で忙しいだろう」、「休み時間でくつろいでいるのかもしれない」などの思いが頭を巡り、必死に我慢していました。「痛い痛い」という言葉を漏らしながら、痛みに必死に耐えていました。しかしどうしても我慢が出来なくなり、やっとの思いでナースコールを押したのです。「どうしましたか」と来てくれた看護婦さんは、「手術後の痛みは我慢しても取れないので、痛くなったら遠慮なく言ってください。」と優しい言葉をかけてもらいました。鎮痛剤を入れてもらったのですが、優しい言葉だけで少し痛みが遠のいたような気がしました。次からは痛みを我慢せずに、コールしたことは言うまでもありません。
 自分が患者さんの立場に立ってみて、“果たして良い患者とは”と、考えてみました。診断の狭間で不安になった気持ち、痛いとか辛いとかの苦しみを、相手が医師だからといって我慢することはないのです。一般的には医師や看護婦の言うことを聞いて、中身がわからなくても素直に医療を受けるというのが、“良い患者さん”と思われがちです。しかし、そんなことはないのです。「何か言って機嫌を損ねたら、先生や看護婦さんに嫌われたらどうしよう」。そんな気持ちは誰にでもあることですが、誰のための医療かということを、もう一度考えてみてください。
 患者さんは自分の疑問を解消して、素直に痛みや不安を訴え、安心して医師の治療を受ける。安心が治療を任せるという信頼関係を作るのです。その信頼関係が、更なる安心を与えてくるのです。自分のために医療を受けるという強い意識を持つこと、それが本当の意味で“良い患者さん”だと思います。
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