今回は、東北外来小児科学研究会の報告を書かせてください。昨年は自分が世話人でしたが、今回は一歩身を引き事務局を担当しました。と言っても仕事は昨年と同様で、特別講演の演者、パネルディスカッションのパネリストを探し、全ての連絡、手配を行なうものでした。また開催案内を作成し、HPに掲載、プログラムの作成だけでなく、会場の手配、ホテルの予約など雑用まで請け負いました。いつもいつも、大変な役割を担当しています(笑)
7月31日(日曜日)に、仙台市医師会館で第10回東北外来小児科学研究会が開催されました。毎年東北で持ち回りで行われますが、10回の区切りとして永井幸夫先生を世話人として仙台市で開催することになりました。東日本大震災の影響もあり、中止や延期の意見も出ましたが、「東日本大震災を忘れない」をテーマとし開催しました。
震災にかかわる特別講演とパネルディスカッション(5人の担当者が話題を提供し会場の人たちとディスカッションするもの)を企画しました。特別講演は、国際医療福祉大学北原規先生の「子ども達への放射線被曝による障害と予防」、NPO法人ロシナンテス川原 尚行先生の「東日本大震災・スーダン内戦~子供たちの未来のために」でした。
どちらも素晴らしい講演でしたが、皆さんが一番関心を持っている北原先生の被曝の講演の概要を示します。
どう考えるか
1)今まで人類の体験したことの無い原発事故であり、被ばくの実態が明らかでない為、基本的には良く判らない。
2)早急に被ばくの実態把握(被ばくの実態調査)が必要である。(県・国・学会の責任)
3)今後原発事故の更なる展開が無ければ、チェルノブイリのような健康被害は恐らく起こらないだろう。
4)福島原発の現況では母親(妊婦)も胎児も幼少児も甲状腺がんは誘発されないであろう。
どうすればよいか
1)医療者は風評被害を防止する責任がある。
2)福島県民の健康を包括的に支えるプログラムの作成が必要である。その枠組みの中で小児甲状腺フォローアップ体制の早期実現(コホート調査と医療の提供)が望まれる。
3)妊婦や授乳婦がヨウ素を過剰に摂取しないような指導が必要である。
4)現状では発がんの可能性は極めて低いが、被ばく線量低減の為に最大限の努力をすべきである。
5)子供を健康面・精神面・経済面において社会全体で支える体制が必要である。
パネルディスカッションでは自分もパネリストとして参加、震災直後からの情報発信の有用性を、皆さんから頂いたメールとともに紹介しました。最後の大きな盛り上がりは、やはり放射性物質の被曝に関する問題でした。福島の市川陽子先生が県内の実情を報告し、親御さんや子どもたちに大きな混乱が生まれていることを伝えました。“子宮頚癌のワクチンをしても、どうせ癌になる...”、“避難指示区域の小児科に子どもが来なくなり止むなく閉院した”など、我々が思いもよらぬ状況があることを知りました。世間では集団疎開の話もありますが、現状を考えるとどれだけ難しいことなのかと嘆いていました。最も大事なことは、正しい情報を保護者に伝えて安心させることを強調されていました。
最後に放射性物質の被曝に関して、自分の考えを述べます。最も大事なことは、情報に惑わされないことです。確かに何を信じていいのか、わからないというのは仕方ありません。でも何かを信じるしかないのです。空間放射線量は示されているし、仙台市の保育園、幼稚園、学校の計測では異常はありません。口に入る水、食物ではしっかり測定されているし、放射線量が高ければ出荷停止の措置もとられています。それを信じなければ、何も信じられなくなってしまいます。チェルノブイリでは、情報も無く汚染された空気、水や食物を、吸い続け口にし続けていたのです。
7月31日のフジTVミスターサンデーでは、自然放射線量が高いと呼ばれる地域に向かい放射線量を測定していました。通常より放射線量が高い流山市のホットスポット(0.3μSv/時)と建物や道路が花こう岩で作られたローマは同じ値を示し、花こう岩でできた日本橋も同じ量の放射線を発しています。12時間飛行機で飛べば通常の10倍以上の被曝があり、世界一放射線量の高いブラジルのリゾート地では、日本の100倍以上の放射線量が測定されました。また年間の被曝線量の限界をどこに定めるかも問題です。ICRP(国際放射線防護委員会)は、福島の原発事故を非常時と判断し年間20〜100mSvを推奨したが、日本は安全を考え20mSvを選んだとのことです。年間100mSv以上では人体への影響が確認されていますが、それ以下はブラックボックス(知ることができないもの)で、人体への影響は誰もわからないことと言われています。
この番組から大丈夫とは言えないし、比較することの意味もありません。しかし、少なくても原発周囲を除き、仙台市では心配は無いと考えています。もちろん、今後の内部被曝を可能な限り少なくするように、情報を信じて環境や口にするものに注意を向けることはとても重要です。
研究会の紹介が、被曝の記事になってしまいました。研究会の参加者は130人を越え大盛況だったことを付け加えておきます。終了後ねぎらいの言葉を頂き、疲れたけれども充実した時間と満足が得られました。最後に、自分自信に「お疲れ様」。そして皆さんに「ありがとうございました」。