かわむら こども クリニック NEWS  平成20年12月号


要は考えよう

 物事の考え方には、見る方向から違いが生まれてきます。患者さんの立場、医療の立場、それぞれで見る方向が変わると、同じことも違って見えてきます。診療場面で経験される、そんな違いについて考えてみましょう。
 親というものは、いつでも子どもは元気で、食欲がなければならないと思っているようです。カゼをひいたり熱がある場合には、誰でも食欲が落ちてしまいます。カゼの子どもを前に、「食欲が無くて心配です」と、お母さんが深刻な顔で訴えます。いつもではありませんが、私もカゼの時には食欲が無くなることがあります。皆さんも同じような経験をしているはずなのですが。もうひとつ、「しっかり食べないと病気が治らない」という昔からの言い伝えも、呪文のように聞こえプレッシャーになっているのかもしれません。カゼで食欲が落ちることは、当たり前と考えるしかありません。誰でも食欲が無い時に、「病気が治らない」と、どんぶり飯を勧められれば嬉しいはずはありません。病気だけでも身体的ストレスなのに、無理やり食べさせられるという精神的なストレスまで加われば、治る病気も治らなくなってしまうかもしれません。子どもはスプーンをもって待ちかまえている親が、まるで悪魔のようにみえるでしょう。決して無理に食べさせる必要はありません。要は考えようです。食欲が無い時は、食べ物が体の負担になるので、むしろ体を守るために食べなくていいと脳から指令がでていると考えてみてはどうでしょうか。水分だけしっかり与えて、お菓子、プリン、ヨーグルト、ゼリーなど食べやすい好きなものだけ与えるようにしてください。私の子ども時代では、病気になるとバナナが食べられる、そんなうれしい記憶が蘇ってきました。その頃のバナナは高級品だったのです。
 目の前にいる子どもは元気そうにみえるのですが、「元気が無く、ぐったりしている」との訴えもよく耳にします。確かに、顔色が悪く、起き上がれないようなら、ぐったりという表現が適切で、本当に心配な症状です。要は考えようです。カゼで体力が消耗している訳ですから、安静にして体力を温存してると考えてはみてはどうでしょうか。誰でもカゼをひけば、多少元気が無くなるものなのです。「家ではぐったりしているのに、病院へ来ると元気。おかしい」ということも聞きます。子どもの視野は狭いので一日中部屋にいると、大人ではトイレに閉じこもっているような感覚です。ですから目新しい場所へ来ると、気分も晴れ晴れして元気になるのです。元気があることをおかしいと思う必要はありません。そう思うのも親御さんの心配からでしょうが。元気が何よりということが、一番大事なことなのです。
 下痢や嘔吐の時、食欲が落ちたり、お腹が痛くなります。これも、要は考えようです。腸炎では消化管の働き(機能)が低下している状態です。ですから、腸の機能を使うような食べ物に対して体を守るように働くのです。食べ物が嘔吐や下痢を悪化させる恐れがあるため、わざわざ食欲を落して防御していると考えてみてはどうでしょう。下痢をする前にお腹が痛くなるということは、よく経験されることです。下痢があるとお母さんの多くは、下痢止めの処方を希望します。この理由には、「下痢には下痢止め」という、テレビコマーシャルも影響が強いのかもしれません。じつは、このような腹痛は体を守る反応と考えるのが医学的な常識です。つまり、下痢の原因であるウイルスや細菌が腸にとどまることは、体にとっては不都合なのです下痢止めを使うと下痢は止るかもしれませんが、病気の治りが遅くなったり、症状を悪化させる可能性があるのです。要は考えようです。お腹に溜まった下痢の悪影響を少しでも少なくし、ウイルスや細菌の排泄を早めるために、わざわざ腹痛を引き起こして悪い便をを排泄するように、体が指令を出していると考えてみてはどうでしょう。
 もちろんすべての状況が、今回の話に当てはまるものではありません。症状の経過や病気の重症度によって判断が違う場合にがあることを知っておいてください。しかし、こんな考え方を知っていると、症状に神経質になり過ぎずお母さんも余裕を持てるかも知れません。
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