かわむら こども クリニック NEWS  平成18年 6月号


テオフィリンは危ない?!

 皆さん喘息で使用するテオフィリンという薬を知っていますか。先日のNNNドキュメント「投毒-薬を毒に変えないために-」を見た方もいると思います。時代によって使い方が変わってきたテオフィリンについて話をしましょう。
 薬の話の前に、まず少し喘息のおさらい(過去の記事も参考に)です。喘息はアレルギーにより気管支の先端に炎症が起り、内腔が狭くなる病気です。喘息というとすぐに咳を思い出しますが、とくに問題となるのは気管支が狭くなるために起る呼吸困難です。この呼吸困難は喘息発作と呼ばれています。喘息にも程度の差があり、咳、喘鳴(ヒューヒュー、ゼーゼー)、呼吸困難まで様々です。以前の治療法は気管支を拡張すること(狭くなった気管支を広げる)に主眼が置かれていましたが、近年は気管支の炎症を押さえる事が主流になってきています。もちろんアレルギー(多くはダニ、ホコリ)が原因なので、アレルゲン(アレルギーを起こす物質)への対応も必要です。この喘息の治療に用いられる薬が、テオフィリンです。
 当院で使用しているテオフィリン徐放製剤には、テオドールとテオロングがあります。テオフィリンには非常に長い歴史が有り、小児用の顆粒製剤も20年以上使用されてきています。長年の使用経験から、近年までは比較的安全な薬と認識されていました。しかし、テオフィリンは劇薬に指定されているのも事実です。誤って大量に投薬すると血中濃度(血液中の薬の濃度)が上昇し、テオフィリン中毒が起き心拍数の増加、不整脈、けいれんなどの症状が現われ、時には死に至る事もあります。こう書くとすごく怖い薬と思われますが、誤った過量投与でなければ、重症の中毒が起る事は無いので安心してください。
 しかし、血中濃度の上昇は様々な因子に規定されていて、過量投与でなくても副作用が起る事が指摘されています。例えば乳児、発熱時、併用する薬剤などの影響によって、濃度が上昇することが知られています。近年、けいれんの関係が取りざたされ、テオフィリン関連けいれんと呼ばれています。血中濃度に比例しけいれんの頻度も高くなりますが、必ずしも血中濃度と比例するものばかりでなく有効濃度(一般的な治療に必要な濃度)でも起る可能性が指摘されています。このけいれんは持続時間が長く、意識障害を伴い、希には脳症と呼ばれる状態を引き起こすことがあります。2005年には、テオフィリンによる脳症の後遺症として7人のお子さんが認定されています。
 さて話はまた変わりますが、喘息の治療はどう行われているのでしょうか。小児気管支喘息治療・管理ガイドラインがあり、ひとつの治療の目安にされています。2005年に改訂されたガイドラインでは、軽症例や乳児(とくに6ヶ月未満)では、テオフィリンを使用しない方向になりました。以前は軽症持続型にも使われていましたが、今回の改訂では中等症持続型の追加治療ヘと変わりました。当院では、乳児期(6ヶ月未満)には投与することは無く、ある程度症状が重いお子さんのみに投与しています。息苦しいなどの呼吸困難の症状があり、咳も含め日常生活(とくに夜間の睡眠)に支障を来している場合に投与しています。
 ここまで書くと現在の服用に不安を覚えるかもしれません。しかし、従来から何も問題無く服用している人は、状況による対応は必要ですが続けて頂くことは構わないと考えています。当然とは言えませんが、薬には副作用があります。もちろん重症な副作用の頻度は高くありませんが、避けて通ることは難しいものです。その場合考えるべきことは、薬の有効性と危険性です。よく言われることですが、薬はもろ刃の剣といわざるを得ません。我々医師は薬の有効性と副作用についての十分な知識を持ち、有効性が上回る場合に限り投薬するということがとても重要な役割です。治療上有効な薬が、誤った判断で使われなくなることも心配です。確かに副作用の頻度が低いといっても、患者さんの生活を変えてしまうほどの重症な場合もあるので慎重に投与しなければなりません。薬の副作用に関する情報は、患者さんの目に触れることはあまりないかも知れません。2005年ガイドラインでは、6ヶ月未満には原則使用しない、2才未満のてんかんや熱性痙攣既往者には原則として推奨しない、発熱時には一時減量あるいは中止するかどうかの指導が必要と書かれています。参考にお渡ししているパンフレットを示しておきます。
 今回のテーマで、少し薬と副作用について考えてみました。我々医師はもちろんのこと保護者の方々の理解を高めることが、副作用を予防する上でも重要なことと理解してもらえればと思います。


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