かわむら こども クリニック NEWS 平成16年 8月号
ツベルクリン反応がなくなる?
皆さん、来年からツベルクリン反応(ツ反)が無くなるのをご存知ですか。今回はその理由と結核について考えてみましょう。
結核は、かつて国民病と呼ばれるような大きな問題で、昭和26年に国を挙げての対策のため結核予防法が大改正されました。対策としては、学童生徒に対するツ反とBCG接種による結核の予防、住民健診での早期発見が、主な柱となっていました。
昭和26年頃には結核は珍しい病気ではなく、新規の患者は60万人、結核による死亡も9万人を超えていました。結核への対策、公衆衛生の向上と医療の進歩によって、順調に患者数が減少しました。しかし、昭和50年代からその減少傾向が鈍り、平成9年には38年ぶりに前年を上回り、その後の改善は横ばいとなっています。平成9年の新規発生患者数は42,715人、結核による死亡者は2,742人となり、平成11年には厚生省(現厚労省)から結核緊急事態宣言が出されるまでになりました。宣言では、結核に対する認識の低下、耐性菌の出現、集団感染や院内感染の続発、高齢者の患者増加、地域格差などの問題点が指摘されています。
結核対策は患者減少に対しては十分な効果を上げていましたが、現在の状況では従来の方法が、発病予防や早期発見に対して効率が良いとはいえなくなりました。そのような状況から新しい対応策が示され、効率的な定期健診、症状のある人や結核と接触した人の早期発見、乳幼児の重症結核の予防ということに重点を置くことになりました。その結果として、ツ反も中止されることになった訳です。
ツ反が中止になる理由を少し説明しましょう。まず子どもの結核が非常に少なくなったということです。乳幼児の結核は症状が出てから見つかることがほとんどで、ツ反だけで見つかることは極めて希になりました。また手技的にも乳児のツ反は難しく、多くの疑陽性を生む原因にもなっています。疑陽性の子どもは精密検査や結核に対する予防投薬を受けることもあり、不必要な検査や治療を防ぐことも重要です。そのことから現在のままのツ反とBCGをセットにして行うことは、個人負担や費用の面からも中止していいという見解となりました。ただし中止となったのは、ツ反のみでBCGは従来のままです。BCGは乳児期の重症の結核予防に重要であることにはかわりがありません。小学1年、中学1年生でのツ反は平成15年度から中止されています。学校検診だけで結核が見つかることは極めて希です。むしろ健診を行っても、新規の患者さんを見逃すこともあります。またツ反陰性者にBCGを接種しても結核予防には効果がないという報告もあり、WHO(世界保健機関)でも廃止が勧告されています。ツ反よりも、症状のある人や結核と接触した人の早期発見が重要となってきているのです。仙台では平成15年から、ツ反に変わる問診を中心とした対策が導入されています。
今回は難しい話なので、少し整理しましょう。まず誤解しないで欲しいのは、結核が無くなったからツ反が中止になる訳ではないのです。結核は確かに減少していますが、患者数が横ばいの状態が続いているので従来とは違う予防対策が必要になったのです。その中でツ反の意味が薄れたことは確かです。ツ反は健診として行うものではなく、結核の診断の補助に行うことになります。
平成17年度から乳児期のツ反は廃止される予定です。しかし、BCGの重要性は従来と同じです。生後6ヶ月までには、必ずBCGを接種しましょう。
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