かわむら こども クリニック NEWS 平成10年 9月号
心の耐性
皆さん耐性という言葉を御存知ですか。医学でいうと細菌に対して抗生物質効かなくなることを耐性と呼んでいます。しかし今回は、医学ではなくこども達の『耐性』ということについて考えてみたいと思います。
最近こども達の間で、暴力や自殺など「キレる」ことが問題になっています。事件でマスコミに上るようなものから、小さなことまで様々です。「キレる」ことの原因については様々なことが言われてきました。親の愛情や理解が足りないなど家庭の問題やストレスなどが、原因として挙げられています。果たして、それらは正しいのでしょうか。
少子化の時代となってこどもが少なくなり、むしろ親は愛情を以前より多く与えようとしています。確かにこどもに限らず大人の世界でも、ストレスは年々増加傾向を示していることも事実です。しかしストレスというのは、それ自体確固たるものではありません。ある人にとってストレスであっても、他の人ではストレスとはなりえない場合もあるのです。戦争や飢饉などの悲惨な惨状が大きなストレスになることは確かですが、こどもの自殺の割合が高いとは限りません。
では本当の原因は、どこにあるのでしょうか。もちろん原因ははっきりしていませんが、次のようなことも考えられているのです。それが耐性の欠如です。この場合の耐性とは、欲求不満に耐えうる力と定義されています。つまり欲求が満たされない状態でも、不適切な行動を起こさないことと考えてもいいでしょう。別名心のブレーキとか、心の免疫体などとも呼ばれているものです。耐性というものが低ければ、心にブレーキが効かず自分自身を抑制できないため問題を起こしてしまうわけです。
ではどうして耐性が欠如するようになったのでしょうか。先日福岡教育大学教授の横山正幸先生の講演を伺いました。耐性の欠如の原因として、いくつかの問題をあげていました。一つは教育の問題です。道徳は遺伝として伝えられるものではなく、学習によって初めて獲得できるものです。しかし道徳が教育の中で軽視されてきたことが、その原因の一つと指摘しています。また我慢することはいけないこと、つまり“こどもの欲求不満はいけないこと”であるという考え方が、続いていたこともその一つです。また耐性というのは、生まれたときから少しづつ発達していくものなのです。その発達に、親の養育態度が大きく関係しているのです。単なる過保護ではなく、放任と過干渉が混在した過保護が耐性の発達を妨げると言われています。耐性の高い子と低い子(乗り切る力のある子とない子)を比較すると、やはり親も同じ傾向を示していました。そしてもう一つの原因として指摘されたことは、『無遊病のこども達』ということです。夢遊病とは違い、遊びを知らないこども達という意味です。こどもは仲間と遊ぶことによって、集団の中で耐性を獲得していくのです。遊びの集団に所属するために、自分を我慢させることを次第に覚えていくのです。その遊びが崩壊したことが、もう一つの要因となってるのです。
ではどうしたら良いのでしょうか。まずは耐性ということの重要性に、目を向けましょう。この記事の中で覚えただけでも、一つの進歩かもしれません。またこどもの心の核は親の元で作られていることを、もう一度認識して欲しいのです。こどもが少なければ、ある程度過保護になることはやむを得ません。しかし単なる過保護と、放任と過干渉が混在する過保護の違いに気付いて下さい。これからはこどもに任せてみて下さい、勝手な先取りはしないでください、必要以上のものをあげないようにしてください。多少の失敗や挫折は誰にでもあるものです。そんなこどもの状態を気にしないだけでなく、親自身が余裕を持つことが大切です。。そしてこども達が目を輝かし、楽しく遊べる環境作りを、みんなで考えてあげましょう。
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