かわむら こども クリニック NEWS  平成7年5月号


ステロイドホルモン

 今回は、ステロイドホルモンについてお話ししてみましょう。ステロイドホルモンという言葉を聞いたことがありますか。一度ぐらいは、耳にしたことがあると思います。
 この言葉が、よく聞かれるようになったのは、アトピー性皮膚炎の治療に関してです。そこから誤解が生じたようで、どうもステロイドホルモンは悪役になっているようです。
 ではステロイドホルモンとはどんなものなのでしょうか。元々ホルモンですから、ひとがからだの中で作り出しているもので、みんなの血液の中を流れています。ステロイドホルモンがなければ、体内のいろいろな調節が不可能になり、生命を保つこともできません。つまりひとが生きていくうえには、無くてはならないものなのです。
 アトピー性皮膚炎や湿疹の治療に使われていますが、他にも様々な病気に使われている薬です。軟膏だけでなく、内服薬、注射液など製剤としてもいろいろあるのです。もちろん安易に用いる薬ではありませんが、重症な場合や免疫などが関係する病気で使われることがあります。小児科関係では、重症の喘息、蕁麻疹、ネフローゼ症候群、白血病で使用されます。目的としては、苦痛を改善することや生命を守るということです。いろいろなことが原因で起こるショックは、放って置けば命にかかわる状態です。こんな場合もステロイドホルモンによって、治療され最悪の事態を免れるひとも大勢います。
 湿疹やアトピー性皮膚炎のおかあさんに、“ステロイドホルモンは使いたくありません”とか“軟膏にはステロイドホルモンは入っていますか”と聞かれることがあります。耳学問の知識でしょうか、ステロイドホルモンはすっかり悪役となっているようです。お母さん達が、しっかりした知識や理解の上で言うのであれば、小生は口をはさみませんし、湿疹やアトピー性皮膚炎が軽くて本人の苦痛がなければ、何も言いません。しかし皮膚が掻き傷だらけで、血がにじんでいる子を前にして、そう言うお母さん達がいます。蚊に刺されて痒くて眠れないのに、そんな子はどんな思いをしているのでしょう。お母さんだったら我慢できますか。きっと我慢できないはずです。飲み薬のかゆみ止めはあまり効果がなく、やはりその症状を軽くするためには、ステロイドホルモンが必要なこともあるのです。
 ステロイドホルモンをどんどん使いなさいと言っているのではありません。国立小児病院の皮膚科の部長の山本先生〔テレビ¥でも活躍中の小児の皮膚科の第一人者です)が仙台の講演会の時に、“お醤油をたくさん飲むと死んでしまいますが、だからと言ってお料理にお醤油を使わないひとはいませんし、まして上手に使えば料理の味も引き立ちます。ステロイドホルモンも同じです”と話されていました。ステロイドホルモンは、死ぬことはありません。やはり必要に応じて、上手に使うことが大切です。
 もう少し激しい表現をしてみましょう。使うか使わないかは、お母さんの判断で結構です。喘息で息が止りそうで苦しいとき蕁麻疹がひどく一睡もできないときショックで今にも死にそうなときに、自分自身にステロイドホルモンを使わない自信がある人は、この薬を否定しても結構です。
 ステロイドホルモンも用は使い方です。もちろん副作用もあります。強いお薬を長期に広い範囲に使用することは避けなければなりません。そのこともしっかり考えるのが、小児科医の仕事です。使う場合には、よく指示を守って使うようにしましょう。
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