かわむら こども クリニック NEWS  平成11年 9月号


救急蘇生

 9月9日が、救急の日というのは御存知ですか。以前はこどもの救急という題で書いたことがありますが、今回は一般的な救急について考えてみましょう。
 救急の日を前にして新聞・テレビなどでは、いろいろな話題が提供されています。その中でも救急蘇生法が注目され、重要性が指摘されています。救急蘇生法の大切さゆえに、救急車に救命救急士が同乗するようになったのです。救急蘇生法と呼ばれるものは、応急手当の中に含まれ、別名心肺蘇生法とも呼ばれています。言葉のように心臓と肺の機能を代行することが、大きな目的です。今回のトルコの大地震の被害状況が明らかになるに連れて、阪神大震災のことが昨日のように思い出されます。大規模災害の場合には、交通路の遮断や重傷者の対応のため、救急隊などの他人の力が期待できない場合もあります。
 自分の肉親が瀕死の状態の時に、「何もしないで待っていること」と「何かしてあげること」を考えれば、誰でも後者を選択するでしょう。我が子、配偶者、親など、誰がいつ、そのような状況になるかは分かりません。こんなデータがあるのを、御存知ですか。呼吸が止まった患者に蘇生法を施した場合、止まってからの時間が短いほど蘇生できる可能性が高くなります。2分以内に蘇生法を開始した場合の蘇生率90%に対して、5分では25%と大きく低下してしまいます。地域や季節時間帯によって異なりますが、救急車到着までは少なくとも10分程度はかかるでしょう。つまり自分たちで蘇生をしなければ、蘇生率が極めて低くなるのです。もちろん救急蘇生は、肉親のためだけのものではありません。解りやすく考えるために、肉親のことを例を挙げていると考えて下さい。
 皆さんは救急蘇生法について、体験や学習したことがありますか?。自動車免許の時や学校で、習った人もいるでしょう。しかし、知らない人も多いはずです。もちろん救急蘇生は、知らなければできません。この記事で出来るようになるものではありませんが、一応の基本として覚えておいて下さい。医学の世界では蘇生法はA、B、C…と覚えます。AはAirway(エアーウエイ)のことで、気道(空気の通り道)を表します。BはBreathing(ブリージング)のことで、呼吸を表します。CはCirculation(サーキュレーション)のことで、循環を表します。この後D、E…と続くのですが、大事なのはABCなのです。
 A:口の中を確認、異物があれば除去。気道を確保。
 B:人工呼吸(呼吸をしていないことを確認)。
 C:心臓マッサージ(脈拍が触れないことを確認)。
 もちろん大切なことは他にもあります。助けを呼ぶことが大切なことの一つですが、助けをすることも大事なことの一つです。学会で大宮に行った時の話です。目の前で車とバイクが衝突して、ライダーが飛ばされました。やじ馬がまわりを取り囲んでいましたが、誰も近付こうとはしていませんでした。小生はたまたま他の医師と一緒だったので、飛ばされた人のところへ行きました。さいわい意識もあり骨折だけのようでしたが、救急車が来るまで対応していました。やじ馬は、何もしてくれませんでした。そんな時、助けの手を差し伸べる勇気が必要なのです。もちろんそれだけでも不十分です。実際に出来なければ、蘇生法とは呼べません。蘇生法は、頭で考えて出来るものではありません。最近は消防署はじめいろいろな場所で、蘇生法の体験が出来るようになりました。いつかはと思わず、機会があれば積極的に参加してみて下さい。
 いつ身内にそんな不幸が、降ってくるかもしれません。救急蘇生は、めったにあることではありませんが出来ないための後悔を考えれば、今のうちに覚えておくことが必要かもしれません。

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