かわむら こども クリニック NEWS  平成11年 5月号


シシちゃんとテトちゃん

 以前に我が家の猫の話を書いたことを、覚えているでしょうか新しい猫が来たので、また話をしましょう。
 昨年11月に雌の小猫“シシ”が、我が家にやって来ました。キューちゃんとクロちゃんのこと(平成10年10月号)もあったので、まるで赤ちゃんが生まれたかのような気持ちで飼い始めました。人の姿を見ると隅の方に逃げ、大きな音がしたかと思うとびくっと飛び上がる、どうも臆病なタイプのようでした。時間の経過とともに、次第に我々になつくようになってきました。動物では食べ物の影響力は大きく、やはり今回も食事の世話をする育ての母である家内に、一番なついていくのでした。家内が呼ぶとしっかり反応するようになり、ひざの上に上り「ごろごろ」するのです。しかし小生を含め他の家族には、寂しくなったりお腹が減ると甘えるのですが、満腹の時には呼んでも反応もなく寄ってもこないことさえあるのです。“シシ”をなつかせるために、甘やかす自分を見て、もう一度子育てをしている気持ちになりました。猫一つとってみても、またまた母親の力の強さには驚かされてしまいます。
 “シシ”も慣れてきたので、楽しく暮らせるように遊び相手として雄猫を飼うことが決まりました。今年の4月に、雄猫が我が家にやって来て、“テト”と名付けられました。性格は“シシ”とはかなり違って、人間に対する怖さはほとんどありませんでした。抱っこしてもいやがることもなく、従順な猫という印象でした。人なつっこいだけでなく、猫なつっこさもありました。
 誰も問題が起きることなど予想はしていませんでした。しかし“シシ”の反応ががらっと変わってしまったのです。友達や兄弟がいれば楽しいのにという、単純な期待は見事に裏切られてしまったのです。“テト”は“シシ”を慕って追いかけるのですが、“シシ”はシャーと威嚇するのです。威嚇され続けながらも、“テト”は無邪気に歩み寄っていくのです。引っ掻かれても噛まれても、まるでお姉さんを慕っているようで、何度も甘えようとしているのです。しかしその甘えや無邪気さが、“シシ”には通じないのです。まるで独り占めしていた愛を奪われたかのように、焼きもちを焼いているようにも見えてしまいます。よく見ると“シシ”は威嚇しながら、後ずさりをしているのです。「弱い犬ほど、よく吠える」の諺のように、怖がっていることの裏返しの反応にも見えるのです。次第に、威嚇の反応は“テト”だけでは、すまなくなってきたのです。小生や家族、終いには家内にまで威嚇するようになってきました。不思議なことに部屋に一匹でいるときには甘えるのですが、“テト”の気配がするだけで反発するのです。
 こんな姿を見ているうちに、ふと15年前の光景を思い出しました。長女は甘やかされて育ち、長男が生まれるとストレスを感じていたことです。最初の子は、親の十分な愛に支えられて育っていくもので、周りすべてが自分の味方だけなのです。また親も神経質になり、過保護気味になることは仕方がないことです。二人目になると親も余裕は出て来ますが、親の愛も分けて与えなければなりません。十分な愛を注がれた最初の子には、愛が減ることが理解できないのです。逆に二人目の子どもは、最初から敵(表現は余りよくありませんが)がいるのです。その競争によってたくましく、育っていくものです。兄弟の違いは、持って生まれた性格よりも、環境によって作られる部分も大きいのでしょう。
 二人の子どもに同じように愛を与えることは、困難です。まして母親は一人なのですから、不可能なことです。状況を考え、それにあった愛の与え方を考えなければならないはずです。人間と猫を同じに考えるわけにいきませんが、子どもとしての感じ方は同じかもしれません。今回のエピソードを通して、またまた子育てについて学ばされた気がします。
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