かわむら こども クリニック NEWS  平成15年 6月号


怒ると叱る

 皆さんは、お子さんを叱っていますか、それとも怒っていますか。今回は叱ると怒るについて考えてみましょう。
 叱ると怒るの意味の違いはどこにあるのでしょうか。辞書〔三省堂:大辞林)を引いてみました。辞書による違いは次のようになっています。叱る:(1) (目下の者に対して)相手のよくない言動をとがめて、強い態度で責める。 「子供のいたずらを―・る」 (2) 怒る。 「猪のししといふものの、腹立ち―・りたるはいと恐ろしきものなり/宇治拾遺 10」(3) 陰で悪口を言う。 「あのやうなしわい人はあるまいと申して、皆―・りまする/狂言・素襖落(虎寛本)」。怒る:(1) 腹を立てる。立腹する。いかる。 「真っ赤になって―・る」。(2) しかる。 「先生に―・られる」。辞書を見るかぎりは、どうも意味は同じ様に思われます。
 実際どんな場合に、お子さんを叱ったり怒ったりするのでしょう。幾つかの例えを挙げてみますので、皆さんも考えて下さい。食事中にたまたま茶わんをひっくり返した。急に道路に飛び出そうとした。電車の中で騒いでいる。ストローからジュースを吹き出して遊んでいる。危険なもの〔例えばナイフ〕を取ろうとしている。他にもたくさんの情況があるでしょう。そんなときどう対応しますか。
 ちょっと話が変わりますが、一才健診の時「お母さんが言っていることがわかりますか」と聞きます。「おいで」や「ちょうだい」は、多くのお子さんは理解しています。時々「ダメ」というのがわかるというお母さんがいます。一才で「ダメ」という言葉の意味が理解できるのでしょうか。実際にはほとんどのお子さんは理解は出来ていません。理解してるということは誤解で、「ダメ」という語気の強さにただびっくりして動きが止っているだけなのです。疑うようなら、一度やさしく「ダメ」と言ってみて下さい。「ダメ」といっても、きっとそのまま続けてしまうと思います。さて「ダメ」が理解できるようになるのは、何才ぐらいからなのでしょうか。やさしく言ったダメが理解できるというのは、善悪の区別が出来始めるころからです。せいぜい3才ぐらいからと思っても間違いはありません。
 なぜ理解の話が突然でて来たのでしょうか。理解が出来なければ、叱っても怒っても意味はないということです。では叱らなくても怒らなくてもいいのでしょうか。決してそうではありません。お子さんの身に危険が及ぶような場合、例えば急に車道に飛びだす、火のそばに近づく、危険なものを触るなどの場合は例外です。やさしく言ってもわからない時期であれば、強めに言ったり多少なら痛みで覚えさせることも必要かもしれません。
 最初の話に戻って、叱ると怒るの違いについてもう一度考えてみましょう。自分は叱るのは相手のため、怒るのは自分のためと考えています。子どもがうっかり牛乳などをこぼしたとき、多くのお母さんは怒ります。親の思い通りにならないときは、これも怒ってしまうのです。汚れてたカーペットのことを考えると、腹立たしくなります。思い通りにならないと、これもまた腹立たしさの原因です。この腹立たしさを相手にぶつけることが怒ることだと考えています。自分の心の中の感情から生まれるものが、怒るということなのです。では叱るということはどういうことでしょうか。叱るということは、相手のためにする行為です。自身に危険が及ぶようなことや他人に危害や迷惑をかけることは避けなければなりません。叱ることは、しつけの一つと考えてもいいでしょう。子ども自身を守るためや社会生活にうまく対応する方法を身に付けさせるために叱るというのが正しい叱り方でしょう。叱るより褒めることが良い子育てということを聞いたことがありますか。確かに一理あります。褒めることも大事ですが、叱ることの大切さももっと理解して欲しいと思います。相手が理解しなければ、叱ることの意味はありません。3才までは叱ることの意味も薄いことを知って対応してあげましょう。
叱るということはしつけの一つと考えて、上手な叱り方を身に付けて下さい。そして褒めてあげることも忘れずに。決して自分の感情だけで、子どもを怒るということはしないように。

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