かわむら こども クリニック NEWS  平成15年 5月号


新型肺炎について

 今回は今世界中で話題になっている新型肺炎について考えてみましょう。
 この肺炎はSARS(サーズ)と呼ばれていまが、SARSの意味を知っている人はほとんどいないと思います。少し難しい話になりますが、まずは名称からです。SARSの正式名称は重症急性呼吸器症候群(Severe Acute Respiratory Syndrome )で、その頭文字から取ったもので肺炎という意味は含まれていません。
 この病気はいつからあったのでしょうか。同じような肺炎が昨年から中国の広東省で見られていました。2003年2月26日に、高熱、痰を伴わない咳、筋肉痛、軽い咽頭痛の症状でベトナムの病院へ入院し、呼吸困難が悪化した患者さんが出ました。香港でも同じような症状の肺炎が認められ、医療従事者を中心に感染が広がり、問題の発端となったことは皆さん御承知のことと思います。その後対応の遅れもあり中国を中心に患者数が増加し、全世界に広がっていったのです。感染が広がるに連れて、この病気の重要性が認識されるようになりました。5月1日現在、発生国は30カ国にものぼり、患者数は5865人で死亡者は391人と報告されています。WHOによる伝播確認地域はトロント、北京、広東省、香港、内モンゴル自治区、山西省、台湾、天津、ウランバートル、シンガポールで、渡航延期勧告対象地域は香港、広東省、北京、山西省となっています。
 症状は38℃以上の高熱、痰を伴わない咳、息切れと呼吸困難です。また胸部レントゲン写真で肺炎の所見が見られます。他に、頭痛、筋肉のこわばり、食欲不振、全身倦怠感、意識混濁、発疹、下痢などの症状が見られることもあります。この症状だけでは、従来の病気と区別がつきません。そのため病気の定義が必要になったのです。マスコミで「疑い例」とか「可能性例」と呼ばれるのは、定義によるものです。「疑い例」とは、38度以上の急な発熱と咳、呼吸困難感などの呼吸器症状がある者。そして次のいずれかを満たす者。 発症前10日以内に、伝播確認地域へ旅行した者。又は発症前10日以内に、SARSの患者さんを看護・介護するか、同居しているか、患者さんの気道分泌物、体液に触れた者と定義されています。「可能性例」とは「疑い例」であって、胸部レントゲン写真で肺炎の所見を示す者。SARSコロナウイルス検査のひとつ以上で陽性となった者。又は原因不明の呼吸器疾患で死亡し、剖検(解剖)により呼吸困難の解剖所見を示した者と定義されています。(難しいので少し簡略化しています)
 原因についても様々挙げられてきましたが、4月16日WHOはコロナウイルス科に属する新しいウイルスが原因と発表しました。
 潜伏期は2〜7日とされていますが、多くは3〜4日と考えられています。しかし潜伏期が長い例では16日との報告もあります。感染経路は明らかにされていない部分も多いのですが、飛沫感染や接触感染が主と考えられています。この理由は患者さんとの接触が強い医療従事者や家族に多いことから推測されています。空気感染や動物による感染も否定はされていません。また香港のマンションでの集団感染については、未だはっきり原因がつかめていません。
 症状は前駆期と呼ばれ高熱や痰を伴わない咳が1〜2日、その後呼吸困難の下気道症状期となります。老人や慢性的な病気を持っている人で重症化することが多いとされ、割合は10%程度と考えられています。90%の人は、6〜7日の経過で改善していきます。死亡率は4〜5%となっていますが、地域によってはより高い死亡率が報告されています。潜伏期が比較的長いため世界中に伝播することと、急性の疾患としては異例に死亡率が高いということが、この病気の大きな問題点なのです。治療法としては現在まで試されたものでは、有効なものはありません。有効な治療法が無い以上、予防することが重要となります。
 予防として最も大事なことは、伝播確認地域への不要不急の旅行は取りやめることです。行かなければ感染しない、これが基本です。自分だけは大丈夫という安易な考えは捨てましょう。自分だけで済まないから問題なのです。このような病気の伝染の一つの原因は、文明がもたらしているのです。他の国へ行くのに何ヶ月もかかるのであれば、病気は広がりません。潜伏期の短い病気も同じです。数日以内に移動できる便利さが、病気を広げているのです。これだけ多くの人が出入りしている日本にだけ、病気が広がらないはずはありません。病気が広がることを前提に十分な対応が必要になるのです。病気を理解することが、我々自身を守る一つの方法なのです。対岸の火事と思わないで、しっかり自分のこと社会のことを考えてみましょう。従来から様々なウイルス感染が問題になるたびに、人類ははウイルスによって滅亡するという警告が発せられます。患者さんが増える一方で、ベトナムでは終息宣言も出されました。これは社会全体での予防対策の効果 と考えられています。手洗い・うがい・マスク等を見直して、病気の予防についてもう一度考えてみましょう。

 新型肺炎については、感染経路、経過や予後も明らかになっていません。一面 の記事も現時点(2003年5月1日現在)のものです。新しい病気なので、常に最新の情報をチェックすることが重要です。情報は各自治体で提供しているほか厚生労働省国立感染症研究所感染症情報センターWHO(世界保健機関)のHPなどを参考にして下さい。現時点で必要以上に怖がる必要はありませんが、日本での流行も充分考えられます。予防に対して行政や医療機関の対応が重要なことは言うまでもありませんが、個人の意識が最も大切です。新型肺炎が疑われる場合は、直接医療機関を受診するのではなく、まずは電話で問い合わせて下さい。
仙台市の問合せ窓口
SARS相談窓口 保健福祉部健康対策課(8時30分から17時15分まで)022-211-2632 。
上記以外の時間帯 仙台検疫所 022-367-8100又は022-367-8101


<こどもの臨床像(ランセット2003.4.29)>
・2003.3.13〜28 香港、プリンスオブウエールズ病院とプリンセスマーガレット病院に入院した10人の子ども
・年齢1.5〜16.4才。(1.5,2.2,5.16.2,7.5,13.2,13.3,15.6,15.6,16.4)  女性8人、男性2人。
・症状  発熱 全員。鼻汁 6/10、咳嗽 8/10。鼻汁及び咳嗽(-)1/1。
 呼吸困難 あり(10才未満)、なし(10才以上)  10才以上 咽頭痛、悪寒、筋肉痛、頭痛が多く、その他めまい、腹痛、吐き気など。
・感染経路  家族5人、医療従事者3人、集団感染2人
・治療  酸素 不要(10才未満)、必要(10才以上の1例以外)  人工呼吸器 1/10。
・結論  子どもは総じて軽症。特に10才未満は全員、酸素を必要としないような軽症。感染は家族など濃厚な接触が原因。リバビリンやステロイドで治療。発症時登校していた子どももいたが、成人の感染とは違い学内での感染はない。同じ時期に30人のSARS可能性例がいたが死亡例はない。大人や10台の子どもと比べ、子どもでは重症化しないようだ。
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Author:
川村和久
Last Updated: 2003年 5月 20日 (火)