かわむら こども クリニック NEWS  平成15年 3月号


理念をカタチに

 2003年2月20日で、開業10周年を迎えることが出来ました。これもひとえに、かかりつけ患者さんをはじめ様々な方々の御支援と御指導の賜物と感謝しております。
 思い起こせば10年前、大きな不安を抱えたままの開業の始まりでした。他県での新生児医療のあと、地元の病院とのかかわりの無いままの開業で、自分自身で落下傘部隊と称しておりました。上手いところに着地すれば味方、場合によっては敵地の真っただ中に取り残される危険さえありました。支えが少ない中、自分の支えとなったのは開業理念でした。今では理念は当たり前で、大きな病院では(もちろん開業医でも)待合室に大きく理念が掲げられています。しかし理念とは掲げられるものではなく、実践されなければ意味がありません。またこの評価は自分自身で行うものではなく、他人が行うものです。理念を掲げても誰にも評価されなければ、自己満足になるだけのものです。
 開業理念の「お母さんの不安・心配の解消」が、はたして理念としてカタチになってきているのでしょうか。少し10年を振り返りながら、考えてみたいと思います。最初に理念を実践する方法は、もちろん診療場面です。来院する親御さんは、皆さん心配や不安を抱えて来ます。「不安・心配の解消」に対しては、十分話を聞いて充分な説明をするということにつきます。理念をもとに診察を行い、「薬局でもらう袋の中には薬以外に、安心も入っている」との思いをもって患者さんに接してきました。しかし診察だけで理念が浸透するものとは思ってはいませんでした。御存知のように、その後理念をカタチにするめに様々な方法を試みてきました。最初の試みは、1993年6月から発行した「かわむらこどもクリニックNEWS」でした。院長の様々な考え方、医療の最新情報、病気の解説、症状の対処法などから始まり、最近は親御さん達の反応も多くコミュニケーションのための道具にもなっています。せっかく新聞を発行しても読まれていない場合もあるという反省と、情報は受け取らなければ、ただのデータの垂れ流しで情報とは呼べないことを学びました。蓄積したデータを求める人達に、情報として提供するために1996年1月「かわむらこどもクリニックHOMEPAGE」を開設しました。窓口を設けていないにもかかわらず相談が来るようになり、理念である「不安・心配の解消」の全国展開として医療相談をはじめました。思わず首をかしげたくなるような相談や親御さんの子どもを思う深さを感じさせる相談などがよせられ、またまた多くのことを学びました。相談の中には、主治医には向けない(向けられない)様々な思い、不安・心配が解消されずに帰路につく患者さんの姿がありました。かかりつけの患者さんが同じ思いをもっても、混んでいるから、忙しいから、聞いたら恥ずかしいなどで、我慢しているかもしれないということに思いが及びました。実際この時期になると混雑することも多く、診療場面だけでは「不安・心配の解消」が不十分との意識も持つようになりました。診療場面で不十分であれば、診療以外で解決する方法を模索するしかありません。そして始まったのが、1998年5月からの育児サークル「お母さんクラブ」です。その頃医療上での様々問題(医療事故など)がマスコミを賑わすようになり、多くの問題の解決のためには医師と患者さんのコミュニケーションの大切さを感じました。また理念の実践のためにはコミュニケーションこそ、重要な要素と考えるように至りました。またコミュニケーションとは医師と患者さんというものではなく医療機関(クリニック)と患者さんのというのが本当の姿です。クリニックと患者さん、そして孤立化が危惧されているお母さん同士のコミュニケーションを確立するため、現在も活動を続けています。しかし「お母さんクラブ」の開催は木曜のため仕事を持ったお母さんは参加できず、もちろんお父さんの参加も現実には不可能です。無意識にかかりつけの患者さん達に差別をつけている反省と、お父さん方にも何らかの形として参加できる方法として、2000年10月「かかりつけ患者さん専用のアドレス」を設定し、毎月30件以上の患者さんとメールの交換をしています。
 この10年、いかにして理念をカタチにしていくかということに、努力を続けてきました。一つ立ち上げると問題点が見えて来ます。その問題に対する対応にも新たな問題点が浮かび上がってきます。途中で挫折しそうになったことも何度もありました。その度に多くの患者さん、HPへアクセスしてくれる方々、医療相談をされた方々の、多くの応援や感謝の声に支えられてきました。その支えによって、また新しいことが生まれて来たのです。理念の評価は自分では出来ないと書きました。当院の理念の「お母さんの不安・心配」がどの程度浸透しているのかは、定かではありません。また幸か不幸か(本当は幸なのですが、忙しくなるのは不幸とも)、雑誌、新聞、ラジオ、テレビなど様々な領域から様々な依頼も来るようになりました。
 様々な領域の多くの方々に支えられ、無事10年を乗りきることが出来ました。あっという間に過ぎてしまいましたが、本当に幸せ者だと思っています。理念をカタチにすることはやさしいことではありません。理念とは理想のようなものであり、果てしなく広がっていくものです。これからも理念を少しでも形にするため、努力を重ねていきたいと思います。
 最後に、当院を支えて下さっている多くの方々とスタッフにも、この場を借りて感謝の意を表したいと思います。本当にありがとうございました。そしてこれからもよろしくお願いいたします。
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