かわむら こども クリニック NEWS  平成22年11月号


カゼをひくと、のどが赤くなる?

 最近診療中に聞かれた、カゼの時の疑問について、考えてみます。表題にあげたように、カゼで受診をした時に「のどが赤いですか?」と聞かれる時が度々あります。さてカゼをひくと、のどが赤くなったり、腫れたりするのでしょうか。
子どもの頃から病院にかかるたびに、「のどが赤いからカゼだね」と言われてきたかもしれません。当院では余程のことがない限り、のどが赤いと言わないことにしています。その理由は何なのでしょうか。カゼは上気道炎と呼ばれ、鼻やのどにウイルスや細菌が感染して炎症を起こすことが原因です。症状は様々ですが、鼻汁、咳、のどの痛み、発熱が主症状です。鼻水だけのこともあれば、全ての症状が揃う場合もあります。しかし、のどに炎症があるからといって、全てのカゼで目に見える程のどが赤くなるものではありません。大雑把に言うなら発熱を伴う時には、のどが赤くなることが多いという程度です。カゼの80〜90%を占めるウイルス感染では赤くなる率が低く、残りの細菌感染では赤くなる確率が高くなります。のどの細菌感染で比較的多くみられる病気に溶連菌感染症がありますが、のどの痛みと赤みがかなり強いのが特徴です。風邪気味で朝起きるとのどが痛くても次第に気にならなくなるようなカゼでは、赤くないのが普通です。当然のことながら熱が出たからと言って、嘔吐下痢症(感染性胃腸炎)やおたふく(流行性耳下腺炎)等では、のどが赤くなることはまずありません。
 ではなぜ、“のどが赤い”という言葉が定着しているのでしょうか。一番は、患者さんが妙に納得してしまうからかもしれません。また医者にとっても、この言葉ほど便利なフレーズはありません。この言葉さえ言ってしまえば、なぜ赤くないかの説明に余計な時間をかける必要は無いのです。ある意味、患者さんを納得させるための魔法の言葉のようなものです。もちろんカゼをひいたらのどが赤くならないと言っているのではありません。軽い赤みはあるのかもしれません。しかし、もともとのどの赤さには個人差があります。それは頬の赤みや唇の赤みに個差があるのと同じことです。一人一人ののどの色を覚えていれば、多少赤みが変わっても赤いと判断出来ますが、残念ながら患者さん全員ののどの色を覚えていることは不可能です。
 もうひとつ、カゼとのどの疑問の定番は、「のどが腫れていますか?」でしょう。皆さんもこのフレーズを簡単に使うと思いますが、さてどこが腫れるのでしょうか。腫れると言っても、どこですかと聞くと誰も答えられません。もし、のどで腫れるとしたら、扁桃(腺)です。これも、のどが赤くなると同じで、カゼだからと言って必ずしも扁桃が腫れるものではありません。扁桃が腫れるのは、文字通り扁桃炎だけと言ってもいいでしょう。もちろん、扁桃炎はウイルスの場合も細菌の場合もありますが、共通しているのは高熱とのどの強い痛みです。のどの赤さと同じように、のどの腫れの判断も難しいことです。扁桃は一般的に赤ちゃん時期には小さく、成長とともに次第に大きくなり、小学校ぐらいで最大となり、大人になるにつれてまた小さくなっていくのです。大きさにも個人差があり、それぞれの扁桃の大きさを覚えていない限り、大きさの判断はできないことになります。
 さらに、カゼとのどの痛みに関して。「子どもがのどが痛いと言っているのですが?」。確かにカゼをひけば、ある程度はのどが痛くなるものです。でも大人は自分の経験から、痛くなるのは当たり前と考えます。当然のことながら、食事も取れず、夜も眠れないような痛みでは心配な病気が隠れている可能性もあります。子どもは経験や知識が無いので、痛ければ痛いと単純に伝えます。痛いと言っていながら、テレビを見て笑ったり、食欲旺盛。大人が相手だったら、「痛くないんでしょう」と言うはずです。子どもの痛みの訴えは、言葉だけでなく行動や動作も含めて判断ししましょう。そして、「痛いの?」とは聞かないように。「痛いの?」と聞くと「痛い」と答えるのが、子どもですから。
 以外と診療の場面で当たり前のようになっている言葉も、医学的にみると根拠が無いものもたくさんあります。このような記事をきっかけにして、誤解を解くことは、よけいな心配を減らせるかもしれません。

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