かわむら こども クリニック NEWS 平成13年7月号
厄介な思い込み
今回は、厄介な思い込みについて、考えてみましょう。
先日乳児健診で、「うちの子は、よく首を振る」と相談を受けました。また同じように「一日中泣いている」、「いつも目を痒がっている」、「よく耳を触っている」なども質問されます。しかし、ほとんどの場合診察している間に、首を振るような動作は見られません。乳児の動きには、説明出来るものと出来ないものがあります。確かに首を振ることがけいれん、目を擦ることが結膜炎、耳を触ることが中耳炎ということもあるでしょう。しかし大人でも肩凝りのため首を振ったり、眠気に負けないように目を擦ったり、何となく耳が痒くなることは珍しいことではありません。普通は、誰も気にしない動作のはずです。しかしどういう訳か、赤ちゃんでは気になってしまうのです。また「いつも」とか「よく」ということについても、考えなければなりません。いつもであれば、健診中も同じ動作をするはずです。いつもと思ってしまう原因は、不安や心配によるものなのです。不安や心配によって、その動作を中心に考えてしまうのです。そして病気ではないかとの思い込みが、その動作が1日中続いているように感じてしまうのです。そして不安を益々大きく膨らませてしまうのです。一日中泣いていたり、いつも首を振っていたら哺乳も出来ないし、よく掻いていたら傷だらけになったり腫れ上ってしまうということも忘れてしまうのです。しかし病気であれば、他の症状が伴うはずです。実際には元気で哺乳も十分で、ぐっすり眠っているのです。一つの動作や症状だけで、全体を判断することは出来ません。まず全体を見てから、一つ一つの動作について考えてみてください。
発達に対する思い込みも、よくあることです。2ヶ月のお子さんが親を認識しないと心配し、7ヶ月でハイハイをしないと不安になってしまいます。発達には、時期と順序があります。例えば首が坐るのは3ヶ月、他人の区別は5ヶ月、ハイハイは9ヶ月などです。またこの発達も個人差があり、出来る出来ないだけで、一概に異常と判断することは難しいことです。病気についても同じで、咳と熱が続けば元気があっても肺炎、ほんの小さな湿疹や皮膚のかさかさだけでアトピー性皮膚炎と思い込んでしまいます。
思い込みは、どこから来るのでしょうか。一つは知識不足でしょう。発達の経過や病気について知らなければ、勉強する必要があります。もう一つは、他のお子さんとの比較です。「隣りの子が出来るのに、うちの子は出来ない」、「友達が肺炎と言われた」などです。比較することが無意味なことを知っているはずなのに、不思議に比べてしまうのです。人が100人いれば、皆違う顔をして、性格も違うはずです。隣りの子とは、お父さんも違うはずです。であれば、違って当たり前なのです。小生も、「そんなに他の子がいいのなら、取り換えたら」と、少し意地悪く言うこともあります。
この厄介な思い込みから解放されるには、心配な気持ちを取り除くことです。心配な気持ちは、正しい知識を身に付けることで解決できることなのです。そのためには勉強が必要ということは、言うまでもありません。勉強といっても育児書や医学書を端から端まで読むということではありません。診察や健診の時にしっかり聞くだけでも、知識となるはずです。不安や心配を取り除く方法は、勉強するか他人に聞くしかなく、一人だけで解決できるものではありません。一つ老婆心ながら付け加えておきますが、周りのお母さん達のアドバイスの半分は(ごめんなさい)、間違っていると思ったほうがいいでしょう。もう一つ大事なアドバイスをします。時には母親という立場から離れて、お子さんを客観的に見る習慣をつけてください。病気や育児に関する確かな情報は「母親の不安・心配の解消」を理念としているクリニック(誰にでも遠慮なく聞いてください)から引きだして、厄介な思い込みと「さよなら」しましょう。
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