今月もまた、新型インフルエンザの話題です。様々な話題が、飛び交っていて、皆さんが混乱しているようです。Q&Aの形をとって、解説していきましょう。
Q1:学校で新型インフルエンザとインフルエンザAが流行しているのですが。
A1:これはある意味では誤解です。インフルエンザの迅速診断キット(検査)では、インフルエンザ(AまたはB)の診断は可能ですが、新型の診断はできません。現状ではインフルエンザAのほぼ100%が新型なので、検査でA陽性の場合には、おそらく新型と判断しているだけです。新型の確認のためには遺伝子検査(PCR)が必要ですが、現在は行われていません。つまり、完全に新型インフルエンザと断定はできないのです。今後、季節型インフルエンザ(A香港、Aソ連)が増加すると、新型の割合が下がり診断できなくなります。ちなみに、8月以降検体を提供して頂いたインフルンザAは、すべて新型でした(東北大学との共同研究)。
Q2:新型インフルエンザは重症だと思うのですが。
A2:確かにマスコミで、死亡例が逐一報告されるので、重症の意識は捨てきれないと思います。季節型インフルエンザの死亡率が0.03〜0.05%と言われています。年間1000万人が罹患したとすると、死亡数は300〜500人になります。新型インフルエンザ患者の正確な数はわかりませんが(7月以降約431万人:10/30読売新聞)、現在のところの死亡者は30人前後です。ということは、決して死亡率は高くないと考えられています。一方、不明な点もあります。季節型の場合の死亡の割合は、乳幼児と高齢者に多い特徴があります。しかし、現在のところ新型では、この年齢層の死亡はかなり少ないのです。残念ながら、理由は不明です。今後どう変わっていくかの注意は必要です。
Q3:微熱で元気もある新型インフルエンザがあると聞いたのですが。
A3:インフルエンザにかかると全員が、高熱などの典型的な症状が出るとは限りません。なかには、感染しているのに症状がでないことさえあります。このような状態を不顕性感染と呼び、インフルエンザでは20〜40%あるといわれています。同様に、症状が軽い新型インフルエンザがあっても不思議ではありません。微熱で元気もある子どもを、わざわざインフルエンザと診断する必要はないと考えています。インフルエンザは重症になるため、自費でワクチンを受け、副作用を心配しながら抗インフルエンザ薬を使用する訳です。逆にインフルエンザがそんなに軽かったら、だれもお金を出してまでワクチンをしないし、抗インフルエンザを使う必要はないはずです。
Q4:保育園(学校)で、検査してもらってきなさいといわれました。A4:これは小児科医からみたら、全くのナンセンスです。医師は検査技師ではありません。周囲の流行状況や症状から、インフルエンザの診断をするのです。あくまでも、迅速診断キットは参考です。診断キットの陽性率には、かなり幅があり、60〜80%程度です。また、発症後の時間の経過も陽性率に関係するといわれています。家族で1人インフルエンザが確定された場合、学級閉鎖になるような流行状況では、検査無しで臨床診断だけで十分と考えています。検査がすべてと考えている親御さんに“お子さんが10人いて次々高熱が出た場合10人検査しますか”と、嫌みっぽく言ってしまいます。Qにも関係しますが、インフルエンザの診断は、患者さんのためです。親御さん、保育園や学校の都合で検査するものではないことを忘れないでください。そして、大人のエゴで必要のない検査の苦痛を味わわせることは、罪かもしれないことに気づいてください。どうしても必要であれば、“検査してもらいなさい”ではなく、“診断してもらいなさい”ということを、しっかり覚えておいてください。 高熱があり、ぐったりするなど具合が悪ければ、当然ながら早めの受診を心がけてください。それほどでもなくて検査が必要と考えるなら、38℃を超えてから、最低でも6〜8時間経ってから受診を考えてください。
Q5:39℃の高熱が出て、急患センターに行ったら解熱剤だけで返されました。
A5:急患センターでは新型インフルエンザの流行の拡大に伴い、患者数がかなり増加しています。曜日や時間帯によっては、待ち時間が2時間以上のこともあるようです。全問で時間の経過によって検査に意味がないことを話しました。状況を判断して、急患センター等の受診は最低限にしたいものです。インフルエンザ以外の病気で2時間待って3分診療、あげくに薬の変わりにインフルエンザをもらってきたでは、何のための受診なのでしょう。
Q6:タミフル飲みながら登園しているお子さんがいますが。(保育園から)
A6:他院で検査陰性にも関わらず、タミフルと抗生物質飲んでいるお子さんがいます。検査陰性だけど周囲の流行状況から考えて、タミフルを処方されたようです。インフルエンザの臨床診断でタミフルを処方したのであれば、何ら問題はありません。しかし、インフルエンザと診断したのであれば、抗生物質は不要です。また、周囲の流行状況を考えたのであれば、検査は不要とも思われます。検査が陰性でも陽性でもタミフルが処方されるということは、検査で痛い思いをした意味はどこにあるのでしょうか。もう一つ重要なことは、医師は診断に責任を持つことです。インフルエンザと診断したのであれば、抗生物質は不要だし、取り扱いはインフルエンザです。このように曖昧に診断を受けたお子さんが、熱が下がってすぐタミフルを服用しながら、集団生活に戻ったとしたら。本当に怖い話です。タミフルを服用したらインフルエンザとして扱い、最低限解熱後2日を経過するまで集団生活を見合わせるのが原則です。
Q7:インフルエンザAに感染したけどワクチンは必要でしょうか。
A7:夏以降のインフルエンザは、ほとんどが新型(当院のデータでは100%)と考えていいでしょう。となると新型のワクチンは必要ありません。季節型に関しては、必要と思われる方は従来通り接種してください。
Q8:ワクチンの同時接種とは、どういう意味でしょうか。
A8:同じ日の同じ時間帯に同じ場所で接種することを同時接種と呼んでいます。これはすべてのワクチンで可能で、新型と季節型インフルエンザワクチンだけではなく、MR(麻疹風しん)ワクチンとインフルエンザ等の組み合わせも可能です。当院のスタッフは、季節型と新型の同時接種をしました。
Q9:輸入ワクチンは副作用が強いということが心配ですが。
A9:輸入は2種類あって鶏卵培養と細胞培養によるものがあります。また、アジュバントとよばれる免疫補助剤が使われています。その影響がどうなのかは現時点では不明です。しかし、米国で採用されているワクチンは同じメーカーですが、アジュバントを使っていないもののようです。細胞培養やアジュバントは日本では始めてですが、その副作用に関しては現時点では不明です。“日本は、余計なものが入った、高い買い物をさせられたのかも?”と指摘している専門家もいます。
今回も紙面が足りなくなりました。毎回同じようなことを書きますが、新型インフルエンザに対して必要以上の心配を持たないこと、十分な情報を得て、症状の経過に注意して、慌てずに対応したいものです。