かわむら こども クリニック NEWS  平成21年 5月号


パンデミック!?

 新型インフルエンザの世界的流行(パンデミック)がマスコミを賑わせています。
 メキシコから始まった新型インフルエンザ(H1N1)の流行は、5月6日現在患者(確定)は21カ国にわたり、患者数は1490例になりました。患者数が多いのは、メキシコ822例、アメリカ403例、カナダ140例で、3カ国で90%以上を占めています。その他スペイン57例、英国27例、ドイツ9例の順です。死亡数はメキシコ29例、アメリカ1例の計30例で、死亡率(致死率)は2%ですが、メキシコが3.5%、アメリカは0.3%となっています。
 少し基礎的なことから。まずは新型インフルエンザとは?。厚労省のQ&Aの解説では、「新型インフルエンザウイルスとは、動物のインフルエンザウイルスが、人の体内で増えることができるように変化し、人から人へと容易に感染できるようになったもので、このウイルスが感染して起こる疾患を新型インフルエンザといいます」。分かるような分からないような説明です。何が問題になるかというと、新型インフルエンザウイルスには、ほとんどの人が免疫を持たないということが重要です。従来のインフルエンザ(季節型インフルエンザ)は、変異はあるにしてもある程度の人たちは免疫を持ち合わせています。ということは、新型インフルエンザは誰でもかかってしまう可能性があるのです。
 新型インフルエンザは、高い致死率なのでしょうか。新型というと、鳥インフルエンザが引き合いに出されます。確かに高病原性鳥インフルエンザA(H5N1)は、WHOの報告(2009.4)によると2003年からの患者数は421人、死亡数は257人(致死率61%)と、とんでもない高い致死率です。しかし、すべての新型ウイルスが強毒性とは限りません。実際、先に示したようにH1NIの致死率は、専門家の間では季節型とかわりはないとの見解です。季節型の死亡率は、直接死亡が0.15〜0.2%程度、超過死亡(インフルエンザが原因と推定される肺炎などによる死亡)は1%程度と考えられています。もうひとつは感染力です。人と人の間で感染が広がることが問題で、従来はフェーズ3でしたが、4月27日にフェーズ4、4月30日には「かなりの数のヒト−ヒト感染があることの証拠がある」のフェーズ5に引き上げられました。致死率が低くても、感染者が多ければ死亡者数も多くなるという、大きな問題を抱えているのです。季節型インフルエンザでは毎年1000万人が罹患するといわれています。感染者が多くなればなるほど、問題は大きくなるのです。
 しかし、まだまだわからないこともたくさんあります。メキシコでの死亡率の高さの理由もはっきりしていません。また、感染者の多くは若い世代(30〜40代)で、60歳以上の患者は少なく、何らかの免疫を持っている可能性も示唆されています。これらに関しては、今後の解明を待つしかありません。
 一番の問題は、日本で流行するかどうかです。遅かれ早かれ、日本でも流行すると考えるのが妥当です。ただし、現時点でどの程度の流行になるのかは、誰にも分かりません。むしろ、これからの季節ではインフルエンザウイルスにとって生存しにくい時期(日本では低温と乾燥が流行の条件)なので、大きな流行にはならないと考えられています。1918年に流行が始まり死者が2000万人以上といわれるスペインかぜは、時間の経過とともに病原性が強くなったといわれています。同じような考え方をすると、初期の流行は比較的小さく致死率も低く、一旦終息した後秋頃からの大流行が要注意ということも言われています。
 H1N1は迅速検査で診断が可能(新型か同じH1N1のAソ連型の区別はつきませんが)であり、タミフルの効果も確認されています。従来のワクチンは全く効果はありませんが、新しいワクチンの開発がなされています。製造ラインの問題で季節型と新型のワクチンをどのような割合で作るかという問題はあるものの、冬に間にあうようにワクチン作りがすすめられていくものと思います。ただ流言飛語による不安で需要が極端に増えるような場合には、ワクチン不足というパニックが引き起こされるかも知れません。
 ということであればいたずらに心配せずに、落ち着いて対処することが望まれます。そして個人でできる予防法を、しっかり励行することが大切です。特に咳エチケットが推奨されているので、次ページに解説(厚労省)を示します。その他、従来から言われているような注意点(厚労省)を示します。

・帰宅後や不特定多数の者が触るようなものに触れた後の手洗い・うがいを日常的に行うこと
・手洗いは、石鹸を用いて最低15秒以上行うことが望ましく、洗った後は、清潔な布やペーパータオル等で水を十分に拭き取ること
・感染者の2メートル以内に近づかないようにすること
・流行地への渡航、人混みや繁華街への不要不急な外出を控えること
・十分に休養をとり、体力や抵抗力を高め、日頃からバランスよく栄養をとり、規則的な生活をし、感染しにくい状態を保つこと

 最後に、正確な情報を収集し、噂や誤った情報に混乱させられないように、落ち着いて対応することの重要性を強調しておきます。


咳エチケット

 風邪などで咳やくしゃみが出る時に、他人に感染させないためのエチケットである。感染者がウイルスを含んだ飛沫を発することにより周囲の人に感染させないように、咳エチケットを徹底することが重要である。
<方法>
 咳やくしゃみの際は、ティッシュなどで口と鼻を被い、他の人から顔をそむけ、できる限り1~2メートル以上離れる。ティッシュなどがない場合は、口を前腕部(袖口)でおさえて極力、飛沫が拡散しないようにする。前腕部で押さえるのは、他の場所に触れることが少ないため、接触感染の機会を低減することができるからである。
 呼吸器系分泌物(鼻汁・痰など)を含んだティッシュは、すぐゴミ箱に捨てる。
  咳やくしゃみをする際に押さえた手や腕は、その後直ちに洗うべきであるが、接触感染の原因にならないよう、手を洗う前に不必要に周囲に触れないよう注意する。手を洗う場所がないことに備えて、携行できる速乾性擦式消毒用アルコール製剤あるいはバック入りのアルコール綿を用意しておくことが推奨される。
 咳をしている人にマスクの着用を積極的に促す。マスクを適切に着用することによって、飛沫の拡散を防ぐことができる。


新型インフルエンザ関連情報
・厚生労働省 :感染症情報:新型インフルエンザ
・国立感染症研究所:感染症情報センター:新型インフルエンザ(ブタ由来インフルエンザA/H1N1) 

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