今年はインフルエンザの話題が多く、今回で3回目です。仙台でも新型インフルエンザが流行してきました。何をどう考え。どんなことに注意すればいいのか、考えてみましょう。
新型インフルエンザ(H1NI)は5月に発生した後、一時期に対策によって押さえられるかと思っていました。しかし、28週頃(医学的な統計では1月から1週と数えます)から増加して、現在も増え続けています。ちょっと古いデータですが、7月24日の患者総数は4,986例の確定例(死亡例はゼロ)として報告されました。患者さんの増加に伴い、この時点から疑い例の全数検査は中止となりました。しかし、集団生活の場で2名以上発生した場合には詳しい遺伝子検査(PCR検査)を行い陽性例を新型インフルエンザ患者、その後に発生した場合には疑似患者として保健所に届け出を必要としていました。
実数調査ではありませんが、インフルエンザに限らず感染症の発生状況の把握に役立つものに感染症発生動向調査があります。インフルエンザに関しては、全国約5,0000の医療機関(小児科が約3,000)から毎週報告され集計されています。テレビでも時々出てくるのでお分かりかもしれませんが、定点あたりの報告数が1.0を越えると、流行が始ったと考えられています。もっとも新しい報告(2009.08.28:33週)では、1.69(報告数7,750)と1.0を上回り全国的にも流行開始と判断されました。定点医療機関からの報告数をもとに、定点以外を含む全国の医療機関を1週間に受診した患者数を推計すると、約11万人にも上ると考えられています。流行は地域によって異なり、都道府県別では沖縄県(29.60)、奈良県(2.96)、滋賀県(2.48)、福島県(2.45)、東京都(2.14)、大阪府(2.14)、茨城県(2.11)、高知県(2.10)、埼玉県(1.91)、長野県(1.83)の順で、沖縄では本格的流行と判断されています。第28週以降第33週までの定点の分析では、10〜14歳3,879例(21.0%)、5〜9歳3,742例(20.3%)、15〜19歳3,301例(17.9%)、20〜29歳2,890例(15.7%)、0〜4歳1,956例(10.6%)の順となっています。5〜19歳が患者発生の中心であり、20歳代までで全報告数の約86%を占めている。現在基本的にPCR検査は行われていませんが、第28週以降では検査の97.1%がH1N1のため、最近の発生患者の殆どが新型インフルエンザに罹患しているものと考えられています。
このような患者数の増加とほとんどが新型であるという理由から、前に述べた新型インフルエンザ(確定例及び疑似症例)の届け出が、8月25日から厚労省の通知により中止となりました。ということは、新型インフルエンザと季節型インフルエンザの区別が無くなり、扱いが同じになったということを示しています。9月1日現在の厚生労働省へ報告された新型インフルエンザによる入院患者数は579例であり、7例の死亡が報告されています。
さて難しい話をしましたが、本当はどう考えたらいいのでしょうか。毎日診察で「熱が出たけどインフルエンザじゃないでしょうか」、「微熱でもインフルエンザのこともあると聞きました」、「咳と微熱があるから検査をしてもらえと言われた」など、様々な疑問が寄せられます。インフルエンザの症状等を説明する余裕が無いため、症状、治療、予防等に関してはCLINIC NEWS(H21.2、5月号:必要なら差し上げます)を参考にしてください。お父さんやお母さん以上に、保育園、幼稚園や学校が神経質になり過ぎているのです。確かに新型インフルエンザという病名は、非常にイメージとして悪いものです。恐ろしい、大変な病気との思いだけでなく、発生したことが知られたら、周囲から敬遠される、白い目でみられるなど、そんな思いを持っている人も少なくありません。季節型と新型インフルエンザは明らかでない部分もありますが病気の程度としては、ほぼ同じと考えられています。また感染性や感染経路も季節型と同じと考えていいものです。でも、ひとつだけ大きな違いがあることだけは、覚えておいてください。季節型に対しては多くの人は多少なりとも免疫を持ち合わせているのとは異なり、新型インフルエンザに対する免疫は誰も(高齢者では免疫があるとの説も)持っていないということです。このことは、これからも流行の規模が大きくなるのは事実であり、仕方がないことです。実際仙台市内でも、学年閉鎖や学級閉鎖の学校がでています。またマスコミで取上げられかたも大きいだけでなく、死亡例が逐一報道されるため、怖いという印象が強いのでしょう。新型インフルエンザに関しては、まだまだ分からないことが多いのですが、季節型と比べて明らかに重症度が高い(致死率=死亡率)という訳ではなさそうです。確かに持病のある人では重症化する可能性も指摘されています。現在のところリスクの高い人としては、慢性呼吸器疾患、慢性心疾患、糖尿病などの代謝性疾患、腎機能障害、ステロイド内服などによる免疫機能不全等が挙げられています。また、妊婦、乳幼児、高齢者の中にも重症化することがあると言われています。しかし、多くのケースでは軽症で、WHOの抗ウイルス薬使用に関する勧告(2009.8.21)では、生来健康な5歳以上の小児では、症状の遷延や悪化が無ければ、必ずしも抗インフルエンザ薬の必要が無いと示されています。逆に基礎疾患を有する患者さんや初期から症状が重い場合には検査結果を待たずに治療してもよいとされています。
とは言ってみたものの、不安が残るのは当然です。多くの子どもは軽症に経過する訳ですから、まずは慌てないということがもっとも大切なことです。以前の記事でも示しましたが、インフルエンザ迅速検査が陽性なるのは、38℃以上の発熱後6〜8時間といわれています。また今迄の検査は新型インフルエンザに対する感度が低く、神戸と大阪の調査では54〜77%程度とされています。となると、検査が陰性だから大丈夫いう訳にはいきません。感染症情報センターから出された新型インフルエンザ診断ガイダンスでは、“無症状者に対して迅速診断キットを使用した場合には、その意結果が陽性であってもその意義は不明であり、また陰性であっても今後の発症を保証するものではなく、臨床上の有用性はほとんどない”とされ、症状が軽い場合は無理やり診断する必要がないことが述べられています。保育園、幼稚園、学校などで、症状が軽いにもかかわらず、検査をしてきなさいということの意味は無いと思っています。
ここまで書いてきて、どうも収まりきりません。もうひとつ重要なことは、重症化、とくに肺炎や脳症を疑わせるような症状(2面に厚労省のQ&Aを示します)に関しては十分な注意が必要で、その場合には速やかに医療機関を受診してください。
急を要するインフルエンザの症状 |
小児 ・呼吸が速い、息苦しそうにしている ・顔色が悪い(土気色、青白いなど) ・嘔吐や下痢が続いている ・落ち着きがない、遊ばない ・反応が鈍い、呼びかけに答えない、 意味不明の言動がみられる ・症状が長引いて悪化してきた 大人 ・呼吸困難または息切れがある ・胸の痛みが続いている ・嘔吐や下痢が続いている ・3日以上、発熱が続いている ・症状が長引いて悪化してきた |
新型インフルエンザに関するQ&A(8.31:厚労省) |
個人個人が行うことができる対策(改訂版) 国立感染症研究所感染センター(予防対策パンフレット)