かわむら こども クリニック NEWS 平成17年12月号
新型インフルエンザとタミフル
最近、新型インフルエンザとタミフルの話題がニュースで取上げられています。厚生労働省は10月28日に、「新型インフルエンザ対策推進本部」を設置しました。理由としては、東南アジアだけでなく、欧州やカナダで鳥インフルエンザが発生し、感染の拡大が心配されること、人への感染が増加していること、WHOが各国に新型インフルエンザに対する行動計画の作成を求めていることがあります。
新型インフルエンザは、鳥インフルエンザの広がりと大きく関係していると言われています。現在のところ鳥インフルエンザは、濃厚な接触により感染する場合がありますが、幸いなことに人から人への感染はありません。この人から人へ感染するようになるのが、新型ウイルスなのです。このウイルスは中間宿主である豚の体内で、鳥インフルエンザウイルスと人インフルエンザウイルスが同時に存在し、変異を起こすことにより発生すると考えられています。鳥インフルエンザに関しては、CLINIC NEWSの2004年3月号の「もう一度、鳥インフルエンザ」を参考にしてください。
新型インフルエンザでもっと大きな問題は、誰もこのウイルスに対する免疫(抗体)を持たないことです。歴史上パンデミックと呼ばれるインフルエンザの大流行は4回あり、これらも新型インフルエンザが原因とされています。1918年頃に流行したスペインかぜでは2000万人以上が死亡し、人類最大の感染症と言われています。新型インフルエンザが流行した場合、医療機関を受診する外来患者は1686万人、入院患者は43万人、死亡者は10万人にもなるとの予測もあります。
ところで、新型インフルエンザはいつ発生するのでしょうか。WHOで「世界インフルエンザ事前対策計画」における警報フェーズ(図1)を示しています。現在のところはフェーズ3であり、人の感染があるがすぐに危険というものではないが、いつ人から人への感染が起こっても不思議ではないという時期と考えられています。このような状況から、「新型インフルエンザ対策行動計画」に基づき、新型インフルエンザに対する対策が進められています。しかし、現在のワクチンは全く効果がなく、治療法はタミフルを含む抗インフルエンザ薬ということになります。ワクチンは新型のウイルスが分離されてから6ヶ月の時間がかかること、タミフルの備蓄もほとんど進んでいないのが現状です。
タミフルに関する話題もマスコミを賑わしています。服用による死亡と精神症状です。米国の米食品医薬品局(FDA)がインフルエンザ治療薬タミフル服用後に日本の子供12人が死亡したと発表しました。これとは別に、男子高校生と男子中学生の精神症状と死亡が報告されています。タミフルとこれらの症例に関しては、全てが副作用と関係があるかどうかは現時点では不明です。インフルエンザの場合、高熱を来すことや特に子どもでは脳が興奮しやすい状況で、様々な精神症状がでることが知られています。また脳炎や脳症の場合は、疾患の症状として精神症状や移動行動が報告されています。副作用も数100万人にひとりと、頻度が高くないものなので、余計な心配の必要は無さそうです。しかし、原因が明らかでない以上、タミフルの使用には充分な注意が必要です。最後にタミフルの流通に関して考えてみましょう。昨年のタミフルの消費量は1165万人でした。今年は1500万人分が準備されているようです。昨年は過去10年間で比較的大きな流行だったので、今年は小規模流行との予想が多いようです。となると、昨年以上の供給量があるので、不足の心配はあまりないと思います。但、今後新型インフルエンザが出現するのかが、大きな問題です。インフルエンザが流行すると老人の肺炎による死亡が増えますが、老人以外ではタミフルを使用しなくても大きな問題にはならないはずです。タミフルの副
作用と新型インフルエンザの被害を考えれば、従来型のインフルエンザに対するタミフルの使用は最小限にすることが望ましいものと思います。そのような理由から、高熱がでたからタミフルを使用するという安易な処方は避けるべきだと思います。
インフルエンザの予防の基本は、規則正しい生活とバランスのとれた栄養です。そして、うがいと手洗いの励行も重要です。そして、もう一つの予防法はマスクです。このような昔からの予防法も取り入れ、従来型のインフルエンザの予防に対するワクチン接種を考慮したいものです。こうやって、新型インフルエンザに対するタミフルの準備を進めていきたいものです。
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