4月から麻しん(はしか)の予防接種対象者が拡大することをご存知ですか。昨年春、小中学校や高校、大学で集団発生し休校など大きな社会問題になりました。6月の院内報に「成人麻しん大流行?!」というテーマで掲載したので、ご存知の方も多いと思います。この社会問題を踏まえ、4月から麻しん・風しん混合ワクチンの接種対象者が拡大されることになりました。
念のため麻しんについて、復習しておきましょう。感染経路は空気感染で、感染力が非常に強い病気です。インフルエンザも感染力が強い病気で、ひとりの患者から免疫を持たない人2〜3人に感染を起こします。麻しんは同じ条件で12〜18人に感染を起こすほど、インフルエンザ以上に感染力が強いのです。患者さんに接触し症状が出るまでの期間を潜伏期と呼び、麻しんの場合は10〜12日前後です。初期の症状はカタル期(3〜4日)と呼ばれ、熱・鼻水・咳・めやに等で、カゼとの区別はつきません。その後一旦熱が下がりかけますが、再びの熱の上昇とともに発疹(発疹期4〜5日)がでます。顔から始まる発疹は全身に広がり、高熱(39〜40度)で咳もひどく、次第に全身状態もおかされていきます。回復期(3〜4日)には発疹が薄くなると同時に熱が下がり、次第に色素沈着が見られるようになります。発疹がでる前に、口の中の両側にコプリック斑(白い斑点)が特徴で、比較的早期の診断に役立ちます。全身状態がおかされる程度は強く、4/10人は入院となり、1/1000人は死亡すると言われています。麻しんは中耳炎など合併症の多い病気ですが、重大な合併症には肺炎と脳炎があり時には死亡することもあります。
麻しんというと小さい子どもの病気と思われがちです。また様々な表現、例えば「恋ははしかのようなもの」などといわれることがあり、過ぎ去れば忘れてしまう程度の軽い病気という誤解もあります。しかしながら、今年1〜3月までの年齢別麻しん報告数(感染研)では、15〜19歳(1139人)がもっとも多く、続いて10〜14歳(892人)、20〜24歳(638人)の順で、1〜4歳(379人)と比べてはるかに多く報告されています。また重症の合併症である脳炎も成人に多く、2004年には健康だった28歳の女性が脳炎で死亡しています。2007年には9人の脳炎が報告され、いずれも10〜20歳代でした。今年も3月までに同じ年代の3人が報告されています。
世界に目を向けてみると、麻しんに対する積極的な取組によりアメリカでは2000年、韓国でも2006年に撲滅されました。昨年、修学旅行中の高校生や少年野球チームの小学生が海外で麻しんを発症し、大きな問題になっただけでなく、隔離のために飛行機に乗れなくなり帰国できないという事態も起きました。このように、日本は先進国の中でも、麻しんの輸出国という恥ずかしいレッテルを貼られています。
皆さんもご存知のように、麻しんには治療法も無ければ、ワクチン以外の有効な予防法もありません。うがいや手洗い、マスクなどで予防できる病気では無いのです。従来麻しんの予防接種は1歳から7歳半に受けることになっていましたが、未接種者が多かったこと、予防接種を受けても免疫の付かないこと、また年月の経過により免疫力が低下することが、10〜20歳代の麻しんの増加の原因(2007.6月号)です。その反省から2006年から麻しん・風しん混合ワクチンを第1期:1歳の1年間、第2期:小学校入学前の1年間の2回接種になりました。今回、日本でも麻しんの撲滅目標を2012年として対策をとることとなり、新しい対応がとられることになりました。
この新しい対応は麻しんキャッチアップキャンペーンともよばれ、麻しん撲滅のための従来の予防接種行政では考えられない画期的な方法です。2008年4月から5年間に限り、第3期:中学1年生に相当する年齢、第4期:高校3年生に相当する年齢が対象になります。推奨期間は4〜6月ですが、接種期間(翌年の3月31日)であれば接種は可能です。また未成年者の予防接種では保護者の同伴が原則ですが、接種率を上げる目的で同伴できない場合は同意書を持参すれば可能になりました。5年間ということは中学1年生が3期を逃すと4期の接種ができなくなります(中学1年生は5年後は高校2年生です)。3期と4期、2回チャンスがあるように思われますが、実際には1回だけなので誤解しないようにしてください。時期を逃しても接種は可能ですが、その場合は任意接種となり1万円以上の負担が必要になります。金銭的なことは言いたくはありませんが、麻しんにかかった時の医療費だけでなく予防接種代金のことをしっかり考えてみてください。
麻しんを撲滅するためには、予防接種率が95%を越えることが必要です。予防接種は自分を守るだけでなく、周りの人たち、社会ひいては国を守ります。第1期・第2期を受けることはもちろん、せっかくのチャンスですから5年間に限定されている第3期、第4期に該当する人は、必ず受けるようにしましょう。