かわむら こども クリニック NEWS 平成19年 6月号
成人麻しん大流行?!
最近成人麻しんが流行し、関東では大学や高校の閉鎖がマスコミで伝えられました。仙台市でも成人麻しん(15才以上)が流行し、21週(5月27日)まで38人が報告されています。感染症動向調査が始まって以来、成人では最大の流行です。一方15才未満は30例ですが半数は10歳以上で、従来の1〜3歳に多いパターンとは異なっています。小児の流行は小規模ですが、今後成人麻しんの流行の拡大によって変わってくる可能性もあります。「恋なんてはしかのようなもの」と例えられ、麻しんとういう名前は知っていても病気としての重さは、以外と知られていません。麻しんは、昔から“命定め”といわれる重い病気で、現在でも命にかかわる重要な病気です。
原因は麻しんウイルスで、飛沫によって感染します。発疹がでる前はカゼと区別つかず、診断が難しい医師泣かせの病気です。初期の診断が難しいことに加え、伝染力が強いため、集団や家庭では感染を防ぐことは不可能です。麻しんに対する直接的な治療は無く、唯一の対策はワクチンによる予防だけとなります。
初期症状はカタル期(3〜4日)と呼ばれ、熱・鼻水・咳・めやに等で、カゼとの区別はつきません。その後一旦熱が下がりかけますが、再びの熱の上昇とともに発疹(発疹期4〜5日)がでてきます。顔から始まる発疹は全身に広がり、熱も高熱(39〜40度)で咳もひどく、次第に全身状態もおかされていきます。回復期(3〜4日)には発疹が薄くなると同時に熱が下がり、次第に色素沈着が見られるようになります。発疹がでる前に、口の中の両側にコプリック斑(白い斑点)が特徴で、比較的早期の診断に役立ちます。麻しんは中耳炎など合併症の多い病気ですが、重大な合併症には肺炎と脳炎があり時には死亡することもあります。全身状態が冒される程度も強く、1/2〜1/3は入院が必要となります。
重症な病気で、治療法もないわけですから、予防することがとても重要です。従来は麻しんの単独ワクチンの接種でしたが、2006年4月からは麻しん風しんの混合ワクチン(MRワクチン)になり、1期(12〜24ヶ月)と2期(小学校入学前1年間)の2回接種になりました。ワクチンの接種による免疫の獲得は高く、現在の予防接種の有効性は充分に確認されていますが、接種率が低いことが大きな問題です。最近様々な取り組みで接種率は向上してきたものの日本は先進国のなかでは最も低く、約85%程度です。接種率が90%を超える国ではほとんど流行はなく、欧米では患者さんが年間100人にも満たないところもあります。欧米とは異なり日本では年間何と5万人以上が罹患し、死亡する子どもが毎年30〜50人前後とのデータもあります。また、日本から麻しんが持ち込まれるため、欧米諸国の間では悪名高き麻しんの輸出国として位置づけられています。
成人麻しんについては、どう考えたらよいでしょうか。幼児期に接種したワクチンでの免疫の獲得は95%程度と考えられています。以前は周囲に麻しんの患者さんがいたため、接触することにより免疫が維持(ブースター効果)されていました。近年麻しんの患者さんが減少したため、接触することが少なくなりブースター効果が働かず免疫が低下してきているのです。時間とともに免疫が低下し、10歳前後で10%、20才になると20%で免疫が弱まると言われています。免疫が低下した時に麻しんに感染したものを“修飾麻しん”と呼び、典型的な症状が見られないこともあります。また、1989年からMMR(麻しん、おたふく、風しん)ワクチン接種が始まりましたが、おたふくワクチンによる髄膜炎の副反応のため1993年に中止となりました。この時期は副反応との兼ね合いもあり、麻しんワクチンの接種率が60〜80%低下しました。免疫の低下、見逃されやすい“修飾麻しん”の存在と未接種者が、高校生や大学生を中心とした流行を引き起こしている原因なのです。
現在流行ヘの対策はどのようにしたらいいのでしょうか。麻しん単独のワクチンは不足し、麻しんの抗体価の検査も試薬の問題で制限されているのが現状です。先月の新聞にも掲載しましたが、箇条書きにしておきます。
1. 定期接種(1期及び2期)を早めに受ける
2. 麻しんワクチン未接種者で未罹患者は、緊急に接種
3. 小学生から20代の接種者は、追加接種
4. 30才以上は、抗体検査後に接種
誰でも感染するというものではないので、状況をよく見極めることが大切です。ワクチン不足や抗体価検査も問題となっているので、医療機関で相談をしてください。
現在の状況を考えると、MRワクチンの定期接種を早めに受けること、未接種者は速やかに接種を受けることが重要です。そして麻しんが怖い病気ということを理解し、周囲にも伝えて下さい。MRワクチンは、「1才の誕生日の最高のプレゼント」です。ワクチンで予防できる病気の一つ、それが麻しんなのです。
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