今月号のテーマをみて、オヤッと思った人も多いかもしれません。麻疹(はしか)なんて耳にもしないのに、なぜ記事になるのでしょうか。実は、最近になって麻しん患者数が増え、大きな問題になりつつあります。今年の患者が、既に83人確認されています(2月9日:国立感染症研究所)。たった83人ですが、この数には大きな意味合いがあるのです。
2007年10〜20歳代の麻しんの流行で、高校や大学が休校措置をとるなどの社会的混乱があったことを覚えて居る方も多いでしょう。その流行を受け、2008年から麻しん患者は全例報告されるようになり、同年には1万人を越えていました。10〜20歳代に流行した理由は、子どもの頃に接種したワクチンの抗体価(免疫)が時間とともに低下したこと、並びに未接種者の存在が理由です。
2006年から麻しんワクチンはMR(麻しん・風しん)ワクチンになり、第1期(生後12ヶ月から生後24ヶ月)と第2期(5歳以上7才未満で入学前年度)の2回接種となりました。しかし若年層での流行を受け、2008年には麻しん排除計画の対策から、1回接種のみの子どもたちを対象に、5年間限定で2回接種(第3期:中学1年生、第4期:高校3年生)を行いました。ワクチン接種率の向上だけでなく、様々な対策が功を奏し、昨年の麻しん患者数は232人まで減少しました。
さて、83人の患者数には、どのような意味合いがあるのでしょうか。わずか1カ月間に前年患者数の1/3がみられたことは、今後はさらに患者数が増える可能性が高いということです。加えての問題は、麻しんウイルスが海外から入ってきていることです。もともと流行するウイルスは、その国特有なもので土着ウイルスとも呼ばれています。日本特有のウイルスは、前述した様々な対策の効果で2010年以来みられていません。しかし、近年のウイルスは土着では無く、海外で流行しているタイプなのです。その約8割近くがフィリピンで流行中のウイルスで、つまり麻しんが海外から輸入されているのです。
CLINIC NEWS「成人麻しん大流行?!」(2007年6月号)でも説明しましたが、初期にはカゼと区別できないため診断が困難で、実は感染力はインフルエンザの10倍も強いのです。そんな理由で、免疫を持っていない人たちの間に、容易に広がってしまうのが特徴です。またインフルエンザとは違い、現在でも治療法は無く、もっぱら対症療法に限られ、時には死に至る重症な病なのです。ちなみにWHOによると、2013年のフィリピン国内での麻しん患者数は2417人で死亡者は26人でした。もちろん環境や医療状況の違いがあるため、単純な比較は出来ませんが現在でも怖い病気のひとつなのです。
タイプは違っていても、麻しんに対する有効な手だてはワクチンのみです。治療法が無く、重症な病気ですから、ワクチンで予防するしかありません。現在はMRワクチンの2回接種で、ほぼ完全な免疫を獲得することが出来ます。さらに前述したように2006年から2回接種、2008年から5年間中学1年生と高校生3年生が追加接種を受ける機会があり、多くの人たちはしっかり免疫を獲得しています。ワクチンの接種率が95%を越えると麻しんが極めて少なくなり、麻しん排除の状態になります。麻しん排除とは、「12ヶ月以上にわたりその地域の流行株による麻しんの伝播がないこと(人口100万人当たり麻しん推定症例が1例未満)」と定義されています。日本は先進諸国に比べて麻しん対策が遅れていましたが、やっと2015年に世界保健機関WHOによる“麻しん排除”認定の取得ができそうな状況です。
せっかく麻しん排除を目前にしての問題が、海外から輸入されるウイルスなのです。ウイルス感染症は潜伏期(感染してから症状が出るまでの期間)があるので、海外から入ってくるもの全てを防ぐことはできません。今後も海外から入ってくる麻しんは増加するのはやむを得ませんが、大事なことは二次感染を防ぐことです。さらには旅行先での麻しん感染を防ぐことも、大切なことのひとつです。
麻しん予防にはワクチンしかありません。しかしながら、未接種者や接種漏れで1回しか接種していない人がいることが問題なのです。
「成人麻しん大流行?!」でも示しましたが、対策は次の通りです(麻しん・風しん:健康教室2014.1月号から引用)
1. MRワクチン定期接種(1期及び2期)を早めに接種
2. MRワクチン未接種者・未罹患者は、緊急に接種
3.ワクチン1回接種者は、MRワクチン追加接種
4. 30才以上50歳未満も、社会を守るためにMRワクチン接種
これを読んだ読者は、「あれ〜、風しんと同じだ」と思われたかもしれません。何度も伝えていますが、風しん感染による“先天性風しん症候群”も大きな社会問題です。
社会を守るためという意識を持ち、成人もしっかりワクチンを受け、麻しん・風しんを撲滅しましょう。
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