かわむら こども クリニック NEWS  平成15年 8月号


怖い病気 それは麻疹!

 今回は麻疹の怖さと問題について、考えてみましょう。
 皆さん、麻疹(はしか)にどんなイメージを持っていますか?。「恋愛は麻疹のようなものである。われわれは皆それを通り過ぎなければならない。(ジェローム)」、「麻疹のようなもの、時がたてば治る」という古い格言もあります。こんなイメージが定着しているので、麻疹は軽い病気と考えてしまいがちです。英語の語源では「悲惨な(ミゼラブル)」から来ていると言われています。また日本でもその昔、「命定め」といわれ、こどもの病気の中でも一番重く、命を左右する病気とされていました。医学は進歩していますが、この麻疹という病気の重さには何ら変化はないのです。
 症状に関しては、小児科ミニ知識にもあるので簡単にします。症状の始まりは、熱・咳・めやに等で、普通の風邪と区別できません。その後一旦熱が下がりかけ、再び熱の上昇とともに発疹がでてきます。発疹は全身に広がり、高熱(39〜40度)となり、食欲や元気がなくなります。中耳炎や肺炎などの合併症が約30%で見られ、平均の入院率は40%にも達する今でも重症な病気の一つです。
 初期の症状がカゼと区別できないことと、感染力が強いために、感染を防ぐ手立てはありません。もちろん、治療法が無いということは言うまでもありません。唯一の予防法は予防接種です。しかし、残念なことに予防接種率は先進国のなかでは最も低く約80%程度です。予防接種の有効性は明らかで、接種率が90%超える国ではほとんど流行はなく、欧米では患者が年間100人にも満たないところもあります。はたして日本では年間何人の患者が発症しているのでしょう。正確な数はでていませんが、何と10万人以上が発症しているとされています。また麻疹で死亡する子どもは、50〜100人前後もいると考えられています。日本から麻疹が持ち込まれるため欧米諸国の間では、悪名高き麻疹の輸出国として位置づけられています。最近では子どもだけでなく、成人の麻疹も問題になってきています。
 麻疹の発症数は地域によって違いますが、1998年に沖縄で大流行し約2000人が発症し、8人の乳幼児が死亡したことが大きな問題となりました。それを契機に2001年“はしか0プロジェクト”を発足させ、小児科医と行政の協力によって確実に効果が挙がっています。その後も各地で麻疹が大きく取り上げられ、麻疹撲滅のための運動が広がりはじめました。
 さて我々が住んでいる宮城県ではどうでしょう。予防接種率が低いため地域によっては流行を繰り返し、この春には仙台市の一部でも流行がありました。麻疹に対する対策は個々の医師の啓蒙活動が中心で、未だ撲滅に向かった大きな動きはありません。もう一つ大きな問題があります。仙台市では麻疹は無料で接種を受けられますが、県内の市町村によっては負担金を課すところもあり、そう言う意味では国内でも後進県と言わざるを得ません。負担金が接種率を低下させている可能性も否定できません。この問題については7月の東北放送のラジオ出演の折りにも話ましたので、聞かれた方も多いかもしれません。
 世界的には麻疹撲滅の方向に傾いていて、WHOではポリオにつぐ目標にすべきかということが議論されてます。先進国であるにもかかわらず、多くの子どもたちが麻疹によって失われています。インフルエンザで死亡する子どもたちよりも多いのです。有効なワクチンによって予防できるというのに、十分な国家的対策がなされていません。少子化の時代子ども命の重要性は、誰もが認めることです。
 麻疹撲滅という大きな目標がありますが、まず身近なところからはじめることにしましょう。少なくとも当院に通院している1才を超えているお子さんは早めに予防接種を済ませましょう。そして麻疹の怖さを、周囲に伝えて下さい。次々と伝えてもらうことによって、麻疹に対する意識が広がっていきます。負担金を無くすことも含め、こうした草の根の運動から大きな動きにつなげましょう。
 麻疹の予防接種は、「1才の誕生日の最高のプレゼント」の一つです。子ども守ること、これが親御さんの役割の中で最も大きいことだと思います。失う命を救うことのできる予防接種が目の前にあるのです。それを使わない手はありません。

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