かわむら こども クリニック NEWS  平成12年 4月号


風邪をひかせる

 「風邪をひかせてしまいました」、「お祖母ちゃんに風邪をひかせてしまって、叱られました」と、診察中に聞かされることがあります。今回は風邪をひかせるということについて、考えてみましょう。
 風邪のほとんどはウイルスによることは、いつも説明しています。風邪のウイルスは季節にって違いますが、いつでもそこら中にあると考えて下さい。人込みや集団生活の中で、そのウイルスが飛んできて、のどに付くことが風邪の始まりです。大人と子ども又は同じ子どもたちでも、風邪にかかる人かからない人がいます。これに大きく関係しているのが、免疫と呼ばれるものです。大人が風邪をひくことが少ないのは、以前にかかった風邪の免疫があるからです。またのどにはウイルスなどを、排除してしまう働きもあります。これは局所免疫と呼ばれ、普通の免疫と同じように大人の方がしっかりしています。疲れたり寝不足や空気の乾燥することが、この局所免疫を低下させ、風邪をひくきっかけになってしまうのです。
 「風邪をひかせてしまいました」と言われたとき、時々お母さん達に冗談で「子どもがなにか悪いことをして、一晩中氷点下の中に置き去りにでもしたの?」と聞いてしまいます。では、本当に風邪をひかせるということがあるのでしょうか。寒さの中でずっと凍えていたとか、栄養失調になっているとか、わざわざ風邪の集団の中に連れていくとか、そんなことがあれば風邪をひかせたと言ってもいいかもしれません。風邪をひかせたと表現するお母さん達は、子どもに申し訳ないことをしたと思うタイプです。
   他人から風邪をひかせたなどと言われると、つい罪の意識を感じてしまうものです。でも安心して下さい。そんな罪の意識を感じる必要はないのです。風邪はひかせるものではなく、ただひくものなのです。中耳炎を繰り返す子供たちに、耳鼻科の先生が無意識に「風邪をひかないよう注意して下さい」と言うことがあります。では、風邪をひかない方法はあるのでしょうか。もちろん簡単な方法があります。生まれたときから無菌的なガラスの箱で育て、親が接触するときには宇宙服のようなものを着て、他人とも接触しなければ、風邪をひくことはありません。そこまでしなくとも、お父さんが風邪をひいたら会社に泊まってもらい、お母さんがひいたら健康なベビーシッターに来てもらい、兄弟がひいたら別のところへ預け、保育園も幼稚園も学校に行かなければ、風邪をひく率はぐっと下がります。でもこれが不可能であることは、言うまでもありません。実際風邪を予防することはできないというところから、話を始めなければなりません。保育所や幼稚園に行けば、どうしても風邪のひく確率は高くなります。うつされるのがいやであれば、集団生活をやめるしかありません。誰も好きで子供を保育園に預けているものではありません。保育園や幼稚園にはそれぞれ入れる理由があるはずです。その必要性と風邪を計りにかけるしかないのです。
 人が一生にひく風邪の数は、ほとんど似たようなものです。それを小さいうちからひくか、大きくなってひくかの違いだけです。よく風邪をひく子は小さいうちに風邪の免疫をつけて、大きくなって親を心配させないように頑張っているというぐらいに考えて下さい。金は天下の回り物(最近は不況で、そうは言えない感もありますが)と言われています。それと同じで、風邪は天下の回り物と考えるしかないでしょう。
 この記事を読んで覚えてもらいたいことは、子どもに風邪をひかせたという、罪の意識などは捨てましょうということです。しかし一般的な注意は必要です。風邪をひいている人とたばこの煙いっぱいのカラオケ・ボックス。例としては適切ではないかも知れませんが、こんな注意が必要なことを付け加えておきましょう。
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