かわむら こども クリニック NEWS  平成23年10月号


還暦を迎えて

 今月号は事情が有り、発行が遅れてしまい申し訳ありませんでした。実は、ついに10月2日に人生の大きな区切りである還暦を迎えてしまったのです。光陰矢の如しと言われますが、あっという間に過ぎ去った60年でした。この還暦という日を切っ掛けに、少々歩んできた道を振り返ってみたいと思います。
 生まれは1951年、昭和でいうと26年になります。東日本大震災の被災地気仙沼で生まれ、物心付く前に仙台に引っ越し高校まで仙台で過しました。
1978年に杏林大学医学部を卒業し、仙台に戻り国立仙台病院(現仙台医療センター)小児科で研修を始めました。1981年国立小児病院新生児科、その後仙台赤十字病院NICU、日立製作所日立病院新生児科を経て、1993年に “かわむらこどもクリニック”を開業しました。
新生児医療では、先進的な医療とともに、母親に対する精神的ケアの重要性を学びました。重症な子どもを目の前にして母親は、時として三重苦を背負ってしまうことがあります。その三重苦とは、子どもの命や未来に対する心配、産んだ責任と後悔、時には非難の矛先さえ向けられることがあります。そんな母親も、我が子を支えにして、子どもとともに成長していくのです。新生児医療を通して、お母さん方から多くのことを学びました。学んだことを開業に活かすために、「お母さんの不安・心配の解消」を理念に掲げたことは、ご存知の通りです。
 開業以来の子育て支援活動は、すべて理念から生まれたものです。理念は掲げるだけでは、何の意味も無く役にも立ちません。理念を形にするための最初の取組みが、「かわむらこどもクリニックNEWS」です。また、理念を全国に広めるために「かわむらこどもクリニックHOMEPAGE」、インターネット医療相談、更にはコミュニケーションの確立の大切さから「お母さんクラブ」とつながっていったのです。その後も、患者さん専用メール、医学生実習受け入れ、Mail News等へと発展していきました。
 医師は教科書から学ぶことは一部で、患者さんから多くのことを学びます。未熟児や病気の子どもを産んだお母さんは悲嘆のため悲しみの涙を流します。母親は強いもので、弱々しかった姿がいつの間にか逞しくなり、退院時には「私に任せて」とばかりに喜びの涙を見せてくれました。そんな、悲しみと喜びの涙で育てられたことから、多くのお母さんたちの恩に報いるため、そのことを地域医療に役立てるため、開業にあたり理念を掲げたものでした。医療や様々な活動を続けていくためのモチベーションは、多くの人たちからの評価です。医師にとって最も大きい評価は、患者さんの「ありがとう」の言葉です。
 今年は様々な意味でも区切りの年と感じていました。仙台市医師会学術奨励賞受賞、数多くの講演、そして日本外来小児科学会優秀演題賞受賞。これらも多くの方々の評価のお陰と思っています。更には、仙台小児科医会の会長として復興支援に協力できたことには、多くの小児科医たちの協力無くしては成し得なかったものと思っています。
 病気が治った後のお母さんの笑顔と「ありがとう」、HPアクセス者からの感謝のメール、医療相談に対するお礼、患者さん専用メールでの感謝、激励や心配、「お母さんクラブ」への参加、そしてMail Newsへの登録や「ありがとう」の言葉。怪我をした時にはお見舞いのメール、震災時は心配や激励のメールなど、どれほど多くの人たちから「温かい心」を頂いたか数えきれません。今回の還暦に際しても、多くのお母さん、そして子どもたちから温かい気持ちを頂き、とてもうれしい誕生日であるだけでなく区切りの日を迎えることができました。ひょっとしても、しなくても日本一幸せな小児科医と思っています。
 今、こうして還暦を無事迎えることができ、順調な道を歩めたことは、患者さんはもちろんのこと、顔も知らない多くの人たちに支えられてきた証拠です。これまでの支えが無ければ、現在続けている活動も挫折したかもしれません。さらに、震災後の不自由な環境の中、不平不満を言わず一日も休まず働き、院長の対応をやさしくフォローしてくれ、休めと言っても休まないスタッフは、金のわらじで探しても見つからない素晴らしい仲間です。感謝しても、しきれません。そんな頼りがいのあるスタッフから、年の数の赤い薔薇とお祝いを頂き、しみじみ幸せを感じ目頭が熱くなる思いでした。
還暦をひとつの区切りとして、家族、スタッフ始め、ここまで支えてくれた多くの人たちに感謝いたします。本当にありがとうございました。
 さて還暦の意味は、生まれ変わるという意味です。生まれ変わってからも、これまでも多くの人たちから寄せられた「温かい心」に応えるために、「継続は力なり」の言葉を支えに精進しなければならいと感じています。
 生まれ変わったばかりの赤ちゃん小児科医ですが、これからもどうぞよろしくお願いいたします。


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