かわむら こども クリニック NEWS  平成13年12月号


医療制度改革について

先月末、医療制度改革大綱が示されたことを知っていますか。今回は医療制度について考えてみましょう。1999年の統計によると国民医療費は30兆円を越え、毎年数%程度増えています。医療費全体に占める70歳以上の老人医療費の割合は35%を超え、国民医療費の増加率より老人医療の増加率は高く、毎年5%以上の増加を続けています。逆に小児(15歳未満)の医療費は、わずか6.6%にすぎません。医療費を年齢で比べてみると65歳未満の1年間一人当り約11万円に対して、65歳以上では57万円にもなってしまいます。今後高齢化が進むにつれ、医療費の総額は益々増加を続けることになります。 ところで今の日本の医療制度で、最もよいことは何でしょう。それは昭和36年に達成された、国民皆保険制度です。今では当たり前で、誰もその恩恵には気付かないかもしれませんが、いつでもどこでも誰でもよい医療が受けられるという世界に誇れるものです。この制度により、日本は世界一の長寿国家となり、医療面の充実も評価されています。御存知のように全ての人が保険料を支払うことによって、病気の時には一部の負担のみで医療が受けられる仕組みです。また医療費が保険料と自己負担だけでは足りず、足りない分には税金が投入されているのです。ところが高齢化に従い医療費が増加し、このままでは制度が破綻する危険性も出てきているのです。 さて増加する医療費に対しては、手だてがあるのでしょうか。税金の投入を増やすこと、保険料や自己負担を増やすことです。また医療費の支出を減らすことも大事な要素です。ただでさえこの不況、税収の増加にはあまり期待ができません。税金の投入を増やすためには、他の支出から回さねばなりません。不必要な公共投資など無駄な支出はあるでしょう。だからといって医療費に向けることが最良な選択とは限らず、国全体として福祉を考えれば、景気対策に回すことも必要なことなのかもしれません。 今回の医療制度改革では、保険料と自己負担率の引き上げや診療報酬の引き下げという項目も盛り込まれました。今回の改革では小泉総理の「三方一両損」の言葉と裏腹に、患者さんの負担だけが大きくなっているようです。民間の保険では支払額が大きくなれば、保険料が高くなってしまうのは当然です。急に熱を出したり、吐いたりすることが子どもの病気の特徴です。お子さんをお持ちの方はよくわかると思いますが、今の制度がいつでもどこでも受けられなくなっては大変です。制度の破綻を考えれば、ある程度の負担の増加は止むを得ないことなのかもしれません。ずっと保険診療が定着していたため、医療にはお金がかかるという意識が持てなくなったのは事実です。しかし患者さんが自分たちの自己負担を少なくするためにも、医療に対するコスト意識を持つことが大切なのです。買い物では値段や賞味期限を気にするだけでなく、原材料や添加物まで気を配ります。しかし医療に対するコスト意識は、あまり高くはありません。コスト意識を持てば、医療の内容や処方された薬にまで気を配れるようになります。もちろんコスト意識は患者さんだけでなく、我々医療機関も持たなければならないことです。後半での文章では、あえて“よい医療”という言葉を外しました。医療機関は、患者さんの負担が増えることによって受診を控えるため、病気の早期発見や治療の中断を危惧しています。医療機関も経営ということを避けて通ることはできず、収入の減少ということも問題になります。今の情況では患者さんの負担を軽くし、医療機関の経営を安定するということは、相反することでしょう。国家の財政に余裕のある時期では、この両方を満足することは可能だったかもしれません。社会全体がリストラなど痛みを伴う対応をしている以上、両者ともある程度の痛みを我慢するしかないのかもしれません。しかし患者さんは弱者という基本理念があるかぎり、そこを守るのも医師に与えられた責務だと思います。同時に問題を解決していくためには、よい医療を提供し無駄を省くなどの努力も必要なのでしょう。また高齢者や乳幼児医療費助成など、患者さんの負担を減らす運動も展開していかなければなりません。この制度が万が一無くなって、最も困るのは患者さんであり、我々自身なのですから。 今回はかなり真面目に、医療保険制度を取り上げてみました。この意見は個人的なものですが、皆さんが医療費や保険制度について考えるきっかけになれば幸いです。
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