かわむら こども クリニック NEWS 平成18年 2月号
インターネットの興味深い相談から
インターネットで医療相談を行なっていることを御存知と思います。医療相談は、当院の理念である「お母さんの不安・心配の解消」の全国展開としてはじめました。現在まで、5000件近い相談を受けてきました。医療相談と銘打っていますが、実のところは“よろず悩み相談所”です。一方的な訴えであり、診察もしていないわけですから、医療行為とは別次元のものなのです。少しでも多くの親御さんの「不安・心配の解消」をすることも小児科医としての使命だと思っています。
当院の対外的な活動を理解してもらうことを目的として、医療相談を取上げました。最近寄せられた印象深い相談を紹介したいと思います。
相談 : はじめまして。1歳2ヶ月になる息子の停留睾丸について相談があります。悩んでいて、ネットで先生のこのサイトを見つけました。息子は停留睾丸で、1歳検診の時に手術をしたほうがいいと言われました。相談というのは、手術の時期についてです。私はカナダ在住で、来月、息子を連れて日本へ一時帰国する予定です。カナダに戻ってくるのは4月中旬です。その時息子は1歳4ヶ月になっています。それから手術をしても遅くはないのでしょうか。ネット等で色々調べてみると、生後6ヶ月〜1歳までに手術をしたほうがいいと書いておられるお医者様もいれば、2歳〜3歳まで待って手術すると書かれている方もおられて困っています。正直、一刻を争う緊急な症状なのでしょうか。今すぐに手術をしたほうがよいと言われれば、勿論、日本行きはキャンセルする覚悟です。心配性で、毎日悩んでしまっています。どうぞよろしくお願いします。
回答:御返事します。停留精巣(睾丸)の手術は、以前と比べて早くなっています。圧迫による精巣への影響は、3歳を過ぎると少しづつ高くなってくると言われています。ここ2ヶ月で取り返しのつかない状況になるとは思えません。当院では1歳6ヶ月までには手術を勧めています。もう一つ重要なことは、親御さんの安心と時間です。日本に帰国してからの方が安心(日本の医療状況や言葉の問題)であり、時間も作れる(外来受診でそのまま手術ということになることは少ないため:手術まで時間が必要な場合も)ようであれば、帰ってからでも問題は無いと思います。まずはあんまり心配しないで大丈夫です。以上のような条件を考えて、決めればいいでしょう。
お礼:こんにちは。お忙しい時にすぐにお返事いただきありがとうございます。「まずは安心」。この言葉が聞きたかったんです。一刻を争う緊急な病気ではないことがわかり本当に安堵しております。ありがとうございました。このようなサイトは、私のような海外在住者にはとても強い味方です。日本語で相談が直接日本の小児科の先生に聞ける、というのは本当に助かります。実は、私が住んでいるカナダで、1ヶ月検診の時に診ていただいた先生は(毎回違うドクターが診て下さいます)「停留睾丸だけど、3歳までには手術が必要。」と言っていました。しかし1歳検診の時のドクターは、「停留睾丸の手術は普通は1歳までにする。」と言うので、日本へ一時帰国することを伝えると、「どちらにせよ息子さんは1歳過ぎてるし、2,3ヶ月遅れたところで、結局もう遅れてるんだから同じこと。」と言うのです。この日、このドクターの発言は本当にショックでした。だから、自宅に帰ってきてすぐ、ネットで日本語の情報を色々調べたわけです。とにかく一安心です。安心して日本に帰ろうと思います。本当にありがとうございました。
数多くの医療相談からは、実に多くのことを学ぶことが出来ました。とりわけ、直接医師に向けられない親御さんの思いを知ることや、我が子を思う親の深い愛情に触れることが出来たことが大きな収穫です。海外在住の方々は様々な理由(言語の違いによるコミュニケーション、医療状況の違い等)で、不安や心配が強くなります。今回のメールは海外での問題と母親の気持ちが浮き彫りにされています。心配事は様々ですが、子どもの健康はとても大きな問題です。
時には不愉快な相談があったり、お礼が必ず来るものでもありません。実際に何度か中止しようと思ったこともありました。そんな状況でも医療相談を続けられる理由は、紹介したような感謝やお礼のメールです。ありがとうという言葉とともに親御さんの気持ちが伝わってきます。メールを通して人のために貢献できているという実感が生まれます。相談者の感謝の気持ちを支えに、しばらく医療相談を続けるつもりです。そしてメールで頂くような親御さんの思いを、診療に活かしたいと思います。
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