かわむら こども クリニック NEWS  平成19年 2月号


バラバラ殺人事件から見えるもの

 昨年末から女子大生バラバラ殺人事件、セレブ妻バラバラ殺人事件等の特別な事件がマスコミを賑わせています。そればかりではなく、連日殺人事件の報道が多いと感じているのは自分だけでしょうか。心理学や犯罪学の専門家でも無く法医学者ではありませんが、小児科医の立場として背景を考えてみたいと思います。
 殺人事件というだけでもニュースなのに、バラバラ事件となると様々な背景を想像してしまうものです。専門家によると遺体をバラバラにするのは、犯罪や身元を隠すため、運びやすくするため、憎しみが強い場合などの理由だそうです。今回の事件の真相はまだはっきりしていないので、このうちどれが当てはまるかはわかりません。
 今回の事件に共通しているのは、家族が比較的裕福ということでしょう。犯罪の理由の中には、経済的な要素が大きいとされて います。報道で知る限り加害者は、子ども時代には不自由の無い生活をしていたようです。
 子どもには様々な欲求がありますが、親が子どもの欲求に全て答えることはできません。子どもも成長とともに欲求が通らない経験から、我慢する方法を自然と学んでいくものです。と言っても、お腹が空けば泣くし、思い通りにならなければ暴れたりしますが、それを我慢させることは赤ちゃんの時期には困難でしょう。ですから親は子どもが小さい時期は多くを許さざるを得ないし、年を経るに連れて許す範囲を狭くしていかなければなりません。人は生きていく上で、親、兄弟等の家庭や友人、学校などの社会の中で、「肯定」と「否定」を経験し続けています。少子化による偏った愛情、本来の意味を失った個人の尊重、そして子育て論の世代間断絶から、子どもの思いどうりにさせてしまうことが望ましい風潮も生まれました。昔は(こういう言葉がでると古い人間と感じてしまいますが)、子育ては両親以外の家族、隣近所という社会に支えられ、また子ども同士の遊びを通して多くのことを学びながら育ちました。子どもたちという小さな社会の中で、将来の大きな社会を乗り切るための知恵のようなものを覚えていったのです。そして、子供が育つとともに、親も社会も育っていったのです。核家族化が進み、希薄な社会との関係では、学ぶための機会が少なくなってきています。子どもが少なければ、子どもへの思いが強くなるのは当たり前です。可愛く思い愛情が強ければ、何でもさせてあげたいと思うのは仕方ありません。逆に育児を母親一人で背負うため一対一の対応に疲れ、余裕が無くなると、うるさい子どもを黙らせるために思い通りにさせてしまうことも多くなるかもしれません。社会や他人との交流の経験が少なく、何でも思い通りにさせてくれる親御さんの中で育った子どもは、我慢をすることができない子になってしまう恐れがあります。偏見かもしれませんが裕福な家庭のお子さんは、経済的な側面に支えられてお坊ちゃんお嬢ちゃんと呼ばれながら、普通以上に思い通りに育てられることが多いかもしれません。人は生きていく上には、様々な場面に遭遇し乗り切らなければならない困難にも出会います。思い通りにならないことを乗り越えていくための力が「心の耐性」と呼ばれるものです。「心の耐性」に関してはCLINIC NEWS(H10.9)にあるので、是非読んでみてください。赤ちゃんの頃から何でも思い通りに育てられ、好きなものを買い与えられ、何でも好きなことをしてくれば、心の耐性が育つ暇が無いのです。思い通りに育てられてくると、自分が何か高い存在にさえ思われ、「自尊心」だけが必要以上に育つのかもしれません。「心の耐性」の欠如と過大な「自尊心」が、時には大きな怒りとなって爆発してしまいます。先に述べた「肯定」と「否定」も関係し、長い間「肯定」され続けてくると、「否定」ということにより「自尊心」が大きく傷つけられることになります。時々診療の場面で、「何でも思い通りにしていると、いつか思い通りにならなかった時、お子さんがキレて刺されるかも」と、笑いながら言うことがあります。常識で分別できることでも、キレることによって見境の無い凶行を引き起こしてしまうかもしれません。今回のケースは突発的な犯行だったかもしれませんが、それまで積もってきた様々なストレスに打ち勝つ心の耐性が育たず、「自尊心」だけが大きく育ってきたことが根底にあるのかもしれません。  週刊誌のように、あること無いこと想像するつもりはありません。この記事で言いたことは、子どもを尊重し何でも自由にさせるということは、子育てに必ずしも必要なものではありません。子どものためにも親のためにも、我慢する力を養うことはとても重要なことです。温かく抱きしめてあげてばかりでは不十分です。様々な人たちと出会い、社会との関係を持つことの重要性を認識してください。そして、時には子どものことを考えて突き放すと言う意識も必要です。全ては子どもの未来のためです。そんな子育てを考えてみてください。
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