昨年の猛暑以上に、今年の6月はあちこちで観測史上の最高気温が記録され、既に熱中症の死亡者もでています。今月は、熱中症について考えてみましょう。
昨年は熱中症で亡くなった方が、今までで最も多かったことは記憶に新しいと思います。消防庁のデータによると昨年夏(7〜9月)、熱中症により救急搬送された人は、53843人で、内訳をみると高齢者(65歳以上)が46.4%、成人(18〜64歳)が41.5%、少年(7〜17歳)が11.2%、乳幼児(7歳未満)0.8%でした。
1年間の熱中症による死亡者が、1718人だったことが6月24日に厚労省から発表されました。内容を詳しく見てみましょう。死亡者の年齢では65歳以上が79.3%、発生場所では家が45.6%、都道府県別では東京が272人と最も多かったのが特徴的でした。
さて、子どもに目を向けてみましょう。“自動車の中に放置され死亡”、“部活動中に救急搬送”などのニュースから、子どもに頻度が多いばかりか、大きな問題となっているように思いがちです。ところが、救急搬送された子どもは12%程度で、死亡は0〜14歳では、0〜4歳のたった1人だけでした。ということは、安心できることではありませんが、思ったほど身近にはないことも覚えておきましょう。
熱中症の症状に関しての説明は省き、ここでは熱中症に関しての誤解について考えてみましょう。暑くなると必ず受ける質問があります。「昨日暑い中遊んでいて夜に熱が出たけど、熱中症ではありませんか?」。熱中症というのは環境や運動によって、水分だけでなく塩分(電解質)が失われるために起こる状態です。熱中症で熱が上がるというのは、重症の指標です。しかし、熱中症は連続する病態で、水分と塩分が取れないと、元気が無くなり、次第に進行して意識がもうろうとしたり、けいれんが起こったり、体温が上昇するものです。暑さの中元気に遊び、夕食も普通に食べて、夜になって熱が出るということは、まず熱中症とは関係ないと考えて構いません。
また、「水分をどれだけ与えればいいのかわからない」との質問も受けます。まず乳児期では、母乳やミルク以外の水分は積極的に与える必要はありません。更に、「母乳以外の水分を与えたいのですが嫌がって飲みません」との訴えを聞くことがあります。この時期の赤ちゃんはお腹が空いてものどが渇いても、それを区別して訴えることができません。のどが渇けば、いつもより母乳を多く飲むだけのことです。ですから、嫌がるのを無理して飲ませる必要は無いのです。
幼児期では少し考え方を変えましょう。赤ちゃんと同じで、のどが渇けば飲みたいだけ与えるのが基本です。親の心配で飲みたくないものを無理に飲ませることだけは避けましょう。さて、水とイオン飲料のどちらがいいのかも、よく聞かれる質問です。小学校高学年以降で激しい運動の場合は別ですが、通常の外遊び程度なら水やお茶だけで構いません。時々1日にイオン飲料を1リットル以上飲んでいる子を見かけます。むしろ“百害あって一利無”というものです。甘い飲み物は甘さを求める習慣を作り、肥満や虫歯の原因となリます。原則甘い飲み物はあたえないということを、しっかり覚えておきましょう。
「エアコンや扇風機を使っていいでしょうか?」も度々です。最も多い発生場所が家という事実から、環境を整えることはとても重要です。よく、「赤ちゃんにエアコンは使っちゃダメ」と言われますが、基本的には間違いです。どんな場合でも、大人は子どもの過ごし易さを確保してあげることが必要です。暑くて眠れないということは、過ごしにくさの表れです。もちろん、冷え過ぎへの注意は必要で、タイマーを利用したり、直接風が当たらないなどの工夫をして、過ごし易い環境を作ってあげましょう。
お年寄りに熱中症が多いのは、体内の水分量が少ない上に、暑さを我慢すること、のどの渇きを感じにくいなどの理由が挙げられています。子どもの場合は、必ずしも熱中症になりやすいという理由は無いのですが、日中車の中や家の中に子どもだけで放置する、炎天下や高温多湿の環境で長時間活動するなど、特別な環境に対しては十分な配慮が必要です。
震災の影響で節電を求められています。もちろん節電も大切なことですが、健康は更に重要であることはいうまでもありません。体が暑さに慣れていない今が、熱中症の危険が高まる時期です。クーラーの効いた室内にこもってばかりいないで、汗をかきやすい体を作るため、積極的に外遊びを取り入れましょう。熱中症に対して必要以上の不安や心配は持つ必要はありませんが、環境に注意を払い、水分補給を心がけ、エアコンなどを上手に使い、暑い夏を乗り切りましょう。
(症状等に関しては、「熱中症に御用心!」NEWS 平成19年7月)