当院の患者さんだけでなく、ホームページを見ている人に役に立つような、良い医者・病院の選び方について、考えてみましょう。当院が良い病院ということではないので、念のため。
先日NHKの「にんげんゆうゆう」という番組で、「良い医者はこうして探せ」というテーマで放映されていました。作家の下田治美さんが、御自身の動脈瘤の手術のために主治医を選んだ経緯が紹介されていました。
さて皆さんは、どんな理由で選んでいるのでしょうか。一番多い理由は、おそらく近いということでしょう。近いということは=便利(コンビニエンス)、ということになります。皆さんもよく知っているコンビニの語源は、コンビニエンス・ストアで、近くて便利が最大のセールスポイントです。品ぞろえも値段もほとんど同じであれば、わざわざ遠くのコンビニに行く人はいないはずです。病院も基本的には料金は同じなので、近くて便利ということが一つの選択の基準になるはずです。しかしコンビニでも、少しづつ特色を出すようになってきています。自由経済の競争の中では、同じという訳にはいかないのでしょう。
もっと大切な選択の基準は、何なのでしょうか。ホームページの医療相談に「A病院ではCと言われたけど、B病院ではDと言われましたが、どちらが正しいでしょうか」という質問が時々あります。このような質問の代表的な病気は、アトピー性皮膚炎や喘息などのアレルギーに関することがほとんどです。特にアトピー性皮膚炎では、診断の時から異なることもあります。軽い湿疹でもアトピーと病名をつける先生もいれば、ひどい湿疹でアレルギーが疑われる場合に初めて病名を付ける先生もいます。また検査も同じで、湿疹の患者全員にアレルギーの検査をする病院もあれば、厳密に選んで検査するところもあります。治療に関してはもっと、渾沌としています。極端な食事制限をする、抗アレルギー剤を使う、ステロイド軟膏を使うなど、様々です。まして食事制限の程度、薬の種類、ステロイドの強さなどをくらべれば、それこそ千差万別
と言うことになります。このような違いが、先生によって答えが異なる理由なのです。違うことを言っているからといって、医師が嘘をつくことはまずないでしょう。どちらも、見方は違いますが真実なのです。しかしその言っていることのどちらが本当かを判断することは、患者さんにはなかなか難しいことなのです。医学的知識が無いことや先入観を持っていることが、判断できない原因になります。極端なことを言えば、アトピー性皮膚炎と確信している親御さんは、ただの湿疹の診断では満足(失礼!!)できないし、ステロイドという言葉にアレルギーを持っている人は子どもの苦痛を救ってくれる薬でも使いたくないものです。これは大人の世界でも時々あることで、癌を心配するあまり癌という診断でなければ納得しないことと同じです。という理由で医療相談の質問には、「どちらが正しいということはありません。医師によっても病気や治療法に関しては、少しづつ考え方が違うのです。どちらが正しいというより、むしろどちらの言っていることが信じられるかです。」と回答しているのです。
「良い医者はこうして探せ」の番組の中で下田さんが主治医を選ぶために、まず始めたのは情報の収集でした。動脈瘤の手術に関する様々な情報を手に入れ、情報の中に出てくる名前をリストアップし、その医師に直接質問をして一人を選んだということです。情報に出てくる有名な医師が必ずしも名医とは限らないこと、直接会ってそれぞれの医師の考え方を確認することが、とても大切なこととまとめてられていました。当院では院内報やホームページで、医療に対する考え方や病気の対処法や治療法について情報として示してあります。しかし誰でも下田さんの様なわけには行かないし、どこでも当院のように情報の提供されているとは限りません。
それではその選択のためには、患者さんはどうしたらいいのでしょうか。まず親御さんも医学的なことについての知識を付けることが大切です。また母親という感情を捨てなるべく第三者的立場で、物事を判断することも大切なことかもしれません。そして医師からは病気や治療法について十分な説明を受け、納得できない場合は更なる説明を引きだしましょう。「混んでいるから」とか「話してくれなそうだから」などの理由を付けずに、お子さんのために疑問を解消する努力も必要です。そして、どの病院がお子さんに最も適切なのかを選択してあげましょう。病院はお母さんのためにかかるものではなく、お子さんのためにかかるものなのです。近くて便利な病院も大切ですが、薬と一緒に安心をもらえる病院を探すことはもっと大切なことでしょう。