かわむら こども クリニック NEWS 平成21年 2月号
インフルエンザ09
インフルエンザが全国的に流行してきました。今月はインフルエンザに関する新しい話題について考えてみましょう。
マスコミの話題でタミフル(オセルタミビル)耐性のインフルエンザウイルスが話題になっています。耐性とは、本来効果のある薬剤が効かない、効きにくくなったウイルスということです。タミフル耐性ウイルスは、昨シーズンから問題になり、とくにノルウエーでは70%が耐性ウイルスと報告されています。一方、昨シーズンの日本での耐性率は僅かに2.6%で、外国と比べてはるかに低い値になっていました。ところが今シーズンでは、A/H1N1亜型(ソ連型)の98%(1.16.09感染研)が耐性ウイルスであることが判明しました。全国のインフルエンザウイルスの検出では、Aソ連型459件、A香港型421件、B型151件が報告されています(1.21感染研)。一方仙台市では、これまでに検出されたのはAソ連型59件,A香港型1件であり,Aソ連型が全体の98%を占めていいます(1.28仙台市衛生研究所)。また、タミフル耐性の解析を行なったAソ連型15株すべてがタミフル耐性であることが判明しています。全国的な割合ではA型のうちソ連が約半数を占めているのでタミフルの効果は半分ぐらい、仙台ではほとんど効果が無いと考えるのが妥当かもしれません。幸いリレンザ(ザナミビル)に対する耐性は報告されていません。
Aソ連型とA香港型を区別出来るのでしょうか。病院で行っているインフルエンザ迅速診断キット(検査)では、インフルエンザAということはわかりますが、ソ連型か香港型の区別は出来ません。もちろんインフルエンザ診断の重要な要素である臨床症状でも区別することは不可能です。全国的な流行状況をみると、仙台でも香港型が流行する恐れもあります。区別が出来ない以上、とるべき方法はタミフルを使用しない、効果の確実性は無いかも知れないが可能性を考えて使うという選択になるでしょう。もちろんリレンザに対する耐性は見つかっていませんから、年長児であればリレンザの使用は、もうひとつの選択になります。ご承知のようにリレンザは吸入薬ですから、吸入が確実にできることが条件となります。年齢は記載されていませんが、概ね5歳以上であれば可能と考えています。確実に吸入できなければ無駄になる訳ですから、親御さんもむやみに希望することは避けたいものです。
タミフル耐性の理由は十分に解明されていませんが、タミフルを使用していない地域で耐性化がみられたこと、世界のタミフルの70%を消費する日本で耐性化が遅れたことを考えると、タミフルの使用とは関係ないものと考えられています、抗生物質の耐性化に関しては抗生物質の乱用が原因であることは証明されていますが、タミフルに対する耐性は自然界の中で変異という形をとって耐性化を獲得したものと考えられています。幸いなことに、A香港型、B型のタミフル耐性株は現在のところ見つかってはいないようです。
タミフル耐性のウイルスに感染すると重症化するという心配があるかもしれません。また、このような言葉を聞くと、新型インフルエンザウイルスと混同してしまうかもしれません。ウイルスの強さのことは病原性と呼びます。タミフル耐性のウイルスだからといって、病原性が強くなるようなことはありません。つまり、症状が特別重症になるということは無く、従来のソ連型と同じ重症度と考えて下さい。もちろん、新型インフルエンザウイルスではないことを、付け加えておきます。
もうひとつは異常行動です。2004年の高校生の転落死亡事故以来、厚生労働省は2007年3月から10才代の子どもへのタミフルの使用を原則中止にしています。その後の結論は出たのでしょうか。先日講演会で、研究班の医師の話を聞く機会がありました。確定的なことは言えないにしても、どうも異常行動は薬剤というより、インフルエンザそのものが関係しているという結論が出そうです。しかし、1月27日に使用の有無は確認されていませんがリレンザを処方された高校生が5回から転落した事故がありました。もちろんリレンザとの関係は明らかではありませんが、厚生労働省は“リレンザなど薬使用の有無にかかわらず、未成年者のインフルエンザ患者は高熱を出してから最低2日は、1人にしないよう”保護者らに注意喚起する通知を製薬企業に出しました。もちろんこの通知は、2007年に出されたものと同様で、当院でもインフルエンザのお子さんに配付しています。
インフルエンザの治療は、益々難しくなってきました。薬剤の使用に関しては、大事なことは親御さんとよくコミュニケーションをとり、十分な納得の上に使用を考えたいと思います。むしろ、安易に薬に頼らないことが、懸命かもしれません。
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