かわむら こども クリニック NEWS  平成24年3月号


改めてインフルエンザを考える

 インフルエンザの流行が収まらない状況が続いています。今月はインフルエンザについて、改めて考えてみましょう。

 インフルエンザの診断には「臨床症状」と「迅速検査」があります。成人や年長児では急に高熱が出て、咽頭痛・頭痛・節々の痛みとともに、鼻水や咳など症状が加わります。成人では典型的な症状が出そろっていれば、臨床診断が可能です。乳幼児ではカゼと区別がつかないことも多いので、保育園等の集団生活での流行状況、家族の罹患が大きな参考になります。迅速検査は有用ですが、発熱直後では陽性にならないことがあり、確実な診断のためには熱が38°C以上で最低5~6時間待つ必要があります。また集団(特に学級閉鎖など)や家族であきらかにインフルエンザの罹患者がいる場合、症状のみでの診断でも、検査以上の確実性があります。

 小児科では検査時間が常識ですが、内科の医師によっては数時間以内、場合によっては発熱直後でも検査を行うことがあります。時間が経過していない場合には陰性であることが明らかなのに、子どもは痛い思いをしなければならないだけでなく、陰性なのに抗インフルエンザ薬を処方されることがあります。検査の陽性陰性に関わらず抗インフルエンザ薬が処方されるのであれば、苦痛を伴う検査は必要ないと考えるのが常識です。もうひとつは親御さんの心配で検査を希望する場合と、保育園等から「検査してもらってください」があります。ここで考えてもらいたいことは、誰のために検査、誰のために子どもが痛い思いをするかです。親の心配や保育園等の希望で検査をすることは、間違いだと考えています。親であっても必要のない苦痛を子どもに強いる権利はなく、まして他人であればなおさらです。もし保育園等で子どもに苦痛を与えることが起きれば、多くの親御さんは抗議に向かうでしょう。しかしながら、当院でも時間が経っていない(4時間以上)場合にやむを得ず検査をすることがあります。それは目の前の子どもが高熱で苦しくて、一刻も早く治療が必要な場合です。結局検査は、子どもの苦痛を軽くするために行うものであることをもう一度認識してください。熱が高くなく元気で走り回っている場合には、症状の推移に注意を払いながら慌てず受診のタイミングを考えましょう。

 ここで笑い話をひとつ。症状と周囲の流行状況でインフルエンザが確実なのに、検査にこだわる親御さんに意地悪く言います。「お母さんが子どもの頃には検査はなかったよね。検査が出来なかった時代はインフルエンザという病気は無かったんだ」と。すると検査が絶対と思ってる中には、真顔で「インフルエンザはありませんでした」と。この回答がどれだけ的外れなものかは、読者の皆さんにはお分かりのことと思います。インフルエンザは古代エジプト時代にも存在し、第一次世界大戦終戦の遠因にもなったのです。

 治療に関する話題の中で異常行動は避けては通れません。タミフルの異常行動の研究はいくつかありますが、因果関係を肯定も否定もできない状況です。吸入薬でも見られることから、異常行動はインフルエンザによるものとの考えが主流になっています。厚生省の見解として“副作用を説明し、保護者が投与後最低2日間監視できるなら新型インフルエンザに対してタミフルを投与することは可能である”としています。

 我々が行った新型インフルエンザの研究について紹介しましょう。18小児科医療機関、医師・スタッフ総勢138人の感染の研究です。健康調査票、ウイルス分離、血清抗体価の推移で、医療従事者の感染を調べたものです。研究の結果、調査した6ヶ月間で感染していた割合は50%程度でしたが、38°C以上の発熱を示したケースはありませんでした。また不顕性感染と呼ばれる症状が全くないケースは20%も認められました。この結果は、軽症インフルエンザが存在し、症状が出ない例もあることを示しています。多くはインフルエンザと診断されず、抗インフルエンザ薬も使用しないで軽快しました。インフルエンザだからといって、必ず抗インフルエンザ薬が必要とは限らないことも知ってほしいところです。
インフルエンザは集団生活では登園・出席停止の措置がとられます。抗インフルエンザ薬の使用により症状の改善が早く、集団生活での流行を阻止できないという理由から出席停止の期間が変更される予定です。従来の解熱後2日(乳幼児では3日)に加えて、発症後5日を経過するまでとなるようです。

 最後に現在は新型インフルエンザのパンデミックと状況が変わっています。診断に関しては検査に頼りすぎ、抗インフルエンザ薬を安易に使用する傾向があります。大事なことは臨床診断であること、軽症であれば必ずしも治療の必要がないことを知る必要があります。また、検査は子どもを苦痛から解放するためのものであり、子どもに辛い検査を強いる権利は親にも無いことを、しっかり理解してもらいたいものです。当院での臨床診断と検査の割合は、半々です。治療に関して抗インフルエンザ薬を使う必要が無いと言っている訳ではありません。必要な症例をしっかり把握して、適切な治療を心がけるべきと考えています。


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