かわむら こども クリニック NEWS 平成14年11月号
インフルエンザ2002
インフルエンザを心配する季節になりました。インフルエンザについての記事を時々掲載していますが、最後は1999年11月でした。この数年間で、インフルエンザの診断と治療法が大きく変わってきたので、その点も含め考えてみましょう。
皆さん御存知のことと思うので、症状については軽く触れるにとどめます。発熱と呼吸器症状が特徴で、高熱が続き、咳がひどく、年長児では咽喉の痛みや節々の痛みなどが特徴です。カゼの仲間と考えてもいいのですが、肺炎の合併率が高く重症化することがあります。毎年老人の肺炎と乳幼児の脳炎・脳症が大きな問題になっています。重症度や生命的予後を考えると、単なるカゼとは違うと考えたほうがいいでしょう。
まず、診断法の進歩から説明しましょう。従来、診断の根拠は臨床症状と周囲の流行情況でした。年長児や成人では典型的な症状を示し診断は比較的容易ですが、乳幼児では症状があまり典型的でないことが多く普通のかぜと区別できない場合がほとんどです。血液の抗体価の検査もありますが、急性期には判断できないため診断には役立ちません。近年インフルエンザ用の迅速診断キットが開発され、わずか10〜20分程度で診断することが可能になりました。のどや鼻の中を綿棒で擦って検体を採取して、インフルエンザウイルスを検出する方法です。希に出血などを起こし痛みは伴いますが、かなり正確に診断が可能となりました。
最近インフルエンザの治療に関しても、目覚ましく発展しました。ウイルスの増殖を押さえる薬が認可されただけでなく、新しい薬剤も開発されたのです。従来パーキンソン病の治療に用いられていたアマンタジンという薬剤が、インフルエンザの治療薬として1998年に認可されたのですが、欠点はA型ウイルスにしか効果がないことです。2000年にA型B型両方に効果がある薬剤が認可され、インフルエンザに対する治療は一変しました。この新しい薬剤は2種類で、吸入薬のザナミビル(リレンザ)と経口薬のオセルタミビル(タミフル)です。ザナミビルは主として成人用として用いられ、オセルタミビルは成人用の錠剤以外に小児用の顆粒が2002年秋から使用できるようになりました。両者とも成人や年長児を中心に使用され、十分な効果が確認されています。抗ウイルス剤はウイルスの増殖を抑える薬なので、早く使うほど効果が高く発熱から48時間以内であれば効果が期待できます。発熱は、服用後1日で40%、2日目では80%が改善されます。時間が経つと効果が無くなるので、インフルエンザが疑われるときは早めの受診を心がけましょう。
もう一つ脳炎・脳症と解熱剤の関係が取りざたされています。両者の関係については十分解明されていませんが、重症な合併症なので危険性を減らすことが大切だと思います。脳炎・脳症の発症した例で多く使われている解熱剤の使用を、見合わせるよう警告もでています。特にジクロフェナクナトリウム(ボルタレン)は小児での使用は禁忌と考えられるよになり、メフェナム酸(ポンタール)も原則として使用しないことになりました。現在、比較的安心と考えられている解熱剤には、アセトアミノフェンとイブプロフェンがあります。しかし、解熱剤の使用は、熱による苦痛を取り除くことを目的として、必要最低限に使うことが原則です。
毎年話題になるインフルエンザワクチンにも、少し触れておきましょう。ワクチンの有効性に関しては、様々な報告があります。高齢者に対するワクチン接種が平成13年11月から個人の発病又はその重症化を防止し、まん延防止を目的として、法律によって予防接種を行う病気(二類疾病)に指定されました。高齢者における有効性は、疑いようの無いところです。ワクチンを接種するようになってから、肺炎で死亡する高齢者の数が減少しているという事実があります。しかし、乳幼児に対する有効性に関する十分なデータは無く、現在研究されているところです。様々な条件によって有効性は異りますが、A型では50%、B型では70%程度と考えられます。治療法の進歩はありますが、インフルエンザにかかってからしか治療はできません。症状が重いというだけでなく重症の合併症からも、予防策の一つとしてワクチンも考慮したいものです。
インフルエンザの詳しい症状は過去の新聞にも出ています。詳しくは、待合室の院内報をご覧下さい。もう一度この機会に、インフルエンザを勉強しておきましょう。
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