かわむら こども クリニック NEWS 平成14年 4月号
お父さんの背中
先月の一面記事は、「お母さんの顔」でした。今月は、お父さんの話題を取り上げたいと思います。
3月26日に、2001年度の国民生活白書が、発表されました。サラリーマン家庭で働く妻は育児などに追われ低収入のパートタイムが多く、夫は就業時間が長いため私生活が充実させにくいと分析されています。また、少子化が最も大きな問題であることも指摘されています。骨子として、夫の育児などの家事参加のため、フレックスタイム制充実など企業側の理解が求められることも示されています。
先日、精神科の先生の講演会で、子どもたちの問題には母親だけでなく父親の存在と家族関係が大きく影響を及ぼしていることを聞いてきました。母親の顔が良い意味でも悪い意味でも、子どもに大きな影響を与えることを示しましたが、父親の顔も同じです。ところが、父親は子どもの顔の見ている時間的余裕もありません。時間的余裕のためには社会や企業が理解を示し、父親が育児に参加できるような体制をとることが必要です。しかし、なかなか難しいのが現実です。父親が育児休暇を取れる制度もありますが、昇進などの将来的な問題などから、断念していることがほとんどだと思います。実際には父親の育児参加は難しく、父親の顔は益々遠くなってしまいます。
それでは、父親は子どもに何を見せればいいのでしょうか。昔から「子どもは父親の背中を見て育つ」という言葉があります。この言葉の裏には、家庭は母親に任せて男というものは家庭を犠牲にしても会社のため働くのが美学という意識があったかもしれません。この美学は時代遅れの感があり、結局子どもに背を向けることだったのかもしれません。しかし現在は状況が変わり、背中を見せるだけでは済まなくなってきているのです。最近、家庭の中における父親の存在が小さくなったと言われています。本来の父親というのは、家庭の中では、でんと構えて、外では家庭を支えるためにしっかり働くというのが理想的です。
見せる背中が小さければ、役割が果たせません。背中を大きく見せるためには、どうすればいいのでしょうか。一番大事なことは、父親としての自覚を持つことです。自分が家庭を支えていると思うことなのです。そして仕事自体が、社会に貢献しているという自信を持つことです。子どもに顔を見せることよりもずっと大事なことは、家庭を安定させることだと思います。大きな背中をもつ父親を中心に、家庭が築かれていくに違いありません。安定した家庭には笑いがあふれ、母親にも余裕が出てきます。夫婦が仲良く、そして余裕が生まれれば、子どもにもいい影響を与えるのに違いありません。しかし、喧嘩ばかり、ろくに口もきかない、時間があればゲームばかり、揚げ句の果てに暴力を振るうでは、家庭の意味がなくなってしまいます。機能不全家族という言葉を知っていますか。それぞれの役割を果たしていない家族のことを示しています。機能不全家族では、子どもたちに様々な影響が出るとされています。そして、今話題になっているような子どもたちの精神的な問題の根が、機能不全家族にあるとの指摘もあります。
今回の文章には誤解される要素があるので、少し補足しておきます。父親が育児参加しなくても良いといっているのではありません。余裕があれば、どんどん育児に参加して奥さんを手伝ってあげて下さい。また父親という言葉が強調されていますが、父親でなくても構わないのです。家庭を支えているのが母親であれば、母親の背中ということにもなります。ただここで言いたいことは、父親としての存在を見せることの大切さです。育児における男女の差はないと思っています。しかし父親・母親というのは、単なる男女の意味ではなく、それぞれ父親・母親の意味が大切であることを知って欲しいと思います。
仕事を放棄してまでの育児参加は、正しい姿ではありません。家庭を支え、仕事を通して社会貢献しているという、大きな背中を見せてあげて下さい。
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