かわむら こども クリニック NEWS  平成11年 4月号


ADHD(注意欠陥多動障害)について

 今回は、最近話題になることが多いADHDについて、考えてみましょう。
ADHDという言葉を聞いたことがありますか。ADHDは、Attention Deficit Hyperreactivity Disorderの略で、日本語では注意欠陥多動障害と訳されています。最近、どうもこのADHDという言葉自体、独り歩きしているようにも思えてなりません。
 ではADHDとは、どんな状態を指すのでしょうか。この状態(病気)の診断の基準は、「年齢に比べて、多動で落ち着き無く、情緒不安定で、衝動的な行動をとりやすい子ども」とされています。でもよく考えてみてください。多動で落ち着き無く、情緒不安定で、衝動的な行動をとるというのは、幼児期ではごく当たり前のことです。3〜4歳ぐらいの子どもに落ち着きなさいと言ってもなかなかできません。ましてこの年齢で落ち着いて見えるような子どもの方が、ちょっと心配な気もします。突然車の前に飛び出すような衝動的な行動も、この時期に珍しいことではありません。一つのことに集中しすぎて、ほかの注意が散漫になるのも同じようなことなのです。ある見方をすれば、ほとんどの子供たちが、この範疇に含まれてしまうのです。
 マスコミで学級崩壊などが報道され、その原因としてADHDが指摘されています。そしてADHDに、注目が集められるようになったのです。幼児期の正常な反応までADHDとされ、周囲からそう見られるだけでなく、親御さんまで心配してしまいます。雑誌やテレビなどでADHDの言葉が出てくるたびに、不安が増してしまうのです。そしてまだ見ぬ将来の姿まで、心配になってしまうのです。
 学校教育の場では、学級崩壊や学習障害などの問題があるのも確かです。ADHDの症状として最も多いのは、注意力散漫です。この注意力が散漫で、ものに集中できないことが、学習能力に影響を及ぼし学習障害と呼ばれる状態に結びつくこともあります。年齢的な変化をみると、幼児期に多動で注意力がなく衝動的で不器用だった子どもが、学習上の問題が見られ、孤立やいじめの対象となったり、暴力や非行へとの経過をとることもあります。
 昔から落ち着きのない子というのは、いっぱいいました。何を隠そう小生も、小学校の通信簿に落ち着きが無いと書かれたものでした。ADHDの診断は難しく、普通の小児科医でさえ簡単にできるものではありません。まして年齢が低くなればなるほど、診断は難しくなるのです。またある時期の一点で診断できるものではなく、経過を追うことによって診断が確定されることも多いものです。しかしADHDを疑われた子供たちの多くは、成長とともに次第に幼児期特有な反応が目立たなくなります。またADHDと診断された子供たちでも、経過は比較的良好で次第に問題が無くなることが多いようです。確かに中には学習障害に結びついたり、成人になっても問題を引きずる例があることも確かです。
 もう一つ、確定された場合には、早期の治療が必要だということです。治療には心理的療法と薬物療法があり、効果を上げています。
 大切なことは幼児期の正常な反応なのか、ADHDなのかなのです。印象や他人の言葉でADHDを心配するものではなく、心配であればまず小児科医に相談することが大切と考えて欲しいと思います。くれぐれも飛び交っている様々な情報に左右されないように!。ほとんどは正常な反応なのですから。
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