かわむら こども クリニック NEWS  平成19年12月号


虐待を考える

 今回は虐待について少し考えてみましょう。突然虐待の話となると、面食らう方もいらっしゃるかもしれません。実は先月号にも書きましたが、12月14日〜15日に三重県で、日本子ども虐待防止学会が開催され、分科会「子ども支援の立場から見た虐待防止」の話題提供者として指名されて、発表してきます。もともと子育て支援には熱心で、理念に基づいた様々な活動を展開していることは皆さんもご存知だと思います。分科会の座長の先生から、「虐待を予防することが非常に重要で、先生のような子育て支援が防止に役立っているはずだ」、とおだてられて引き受けてしまったのです。
 確かに虐待の背景は様々で、東京都が行なったアンケートでは親のストレス(56.5%)、親の責任放棄(43.0%)、親自身が被虐待者(42.5%)、家庭の不和(38.5%)、育児に対する知識・経験不足(37.5%)、(周囲からの)家庭の孤立(33.5%)、経済的問題(リストラ・生活苦) (21.0%)、親と子の性格不一致(3.0%)、その他(10.0%)となっていました。慶応大学での調査では、育児ノイローゼやストレスの為が約半数を占めていました。両方の調査からのみえるものは、育児ストレスが大きな要素を占めているということです。育児のストレスにも様々ありますが、乳児では特に病気や健康上の不安が多いとされています。そう考えると、当院の理念に基づく活動も、ある意味では虐待の防止(予防)効果があるかもしれません。
 学会の準備のために虐待について調べてみると、いろいろなことが分ってきました。厚生労働省のデータ(2006)では、虐待によって死亡したケースは年間50例(1週間で1人の割合)とされています。しかし、NPOの調査では200例近くが、虐待によって死亡しているというものがあります。どちらにして、この数は相当なもので、例えば一般的な病気で亡くなる数(1疾患に対して:麻しん、インフルエンザ)より、はるかに多いということになります。虐待は死亡するだけでなく、様々な後遺症(身体的、精神的)を残すことから考えて、小児期の重要な疾患として考えるべき指摘する先生もいます。乳幼児揺さぶられ症候群という言葉を聞いたことがあります。乳幼児の頭部を暴力的に揺さぶることによって、脳の表面の橋静脈が切れて頭蓋内に出血するものです。頭蓋骨以外の骨折や皮膚の内出血を伴うこともあり、多くは虐待によるものと考えられています。頭蓋内出血は命に関わるばかりでなく、後遺症として発達障害や視覚障害の原因にもなるのです。
 虐待に対しての小児科医の役割として、虐待を疑う、児童相談所に通告する、親へ告知する、診断書を作成するなどがあります。総合病院では虐待に遭遇することは珍しくはありませんが、我々開業医のところで虐待が確定できることはほとんどありません。実は開業して以来、1例だけ虐待を疑わせる症例がありました。今から10年以上前、開業間もない時期に、3〜4ヶ月の赤ちゃんが腕を痛がって泣いていると受診しました。親御さんの話では、ベビーベッドの柵に腕を挟んだまま寝返りをしたと言うことでした。診察で明らかに上腕骨に骨折がありました。その頃は虐待という意識も無かったため、整形外科に紹介して終わりました。しかしよく考えてみると、寝返りで骨折するはずは無く、お礼も含めて、その後一度も当院を受診することはありませんでした。今思うと、やはり虐待だったのかと思い、その子がどうなったのか未だに気掛かりです。
 さて、ネグレクトという言葉をご存知ですか。これも虐待を考える上では、とても重要な言葉です。ネグレクトの種類には、次のようなものがあります。  ・栄養ネグレクト:十分な栄養や食事を与えない。
 ・衣料ネグレクト:気候や天候に適した衣服を着せない。
 ・衛生ネグレクト:入浴させない、おむつを変えない、不潔な環境。衛生状態が保たれていない。
 ・環境ネグレクト:窒息の危険(ピーナッツ)や中毒(たばこ)の恐れがあるものを子どもの回りに置く、事故が起きやすい環境に置く
 ・監督ネグレクト(安全のネグレクト):危険な場所で遊ばせる、家に置いたままの外出、車の中に放置する。
 ・保健ネグレクト:予防接種や健診を受けさせない。
 ・医療ネグレクト:必要な医療や養育を受けさせない。必要な医師の指示に従わない。
 ・情緒ネグレクト:必要な情緒的関わりをしない。
 ・教育ネグレクト:子どもを学校に行かせない。
 ・遺棄:子どもを遺棄する。
 開業医では虐待が見つからない理由は、保健・医療ネグレクトの状況下にあることが多いだけでなく、他人に痕跡をみられたくないという意識も働いているのからです。しかし、子どもがたばこを食べたと真っ青になって駆け込んでくることは珍しくはありません。こんなことも虐待に当たることを、皆さんも考えてください。この記事を読んでいる親御さん達には、虐待は無関係でしょう。ネグレクトも虐待のひとつであり、子どもさんへの言葉の掛け方など、思わず思い当たることがあるかもしれません。これをいい機会に、虐待のことを一度考えてみてはいかがでしょうか。

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