かわむら こども クリニック NEWS  平成13年8月号


二兎を追う者は…

 皆さん、「二兎を追う者は、一兎も得ず」ということわざを知っていますか。兎とはウサギのことで、同時に二つのことをしようとすると、どちらも失敗するという意味です。
  診療場面では、この二匹のウサギにたくさん出くわします。例えば、「薬を飲まないけど咳を止めたい」、「牛乳を飲ませながら下痢が止らない」、「熱があるけど風呂に入れていいか」などです。この場合の二兎は、「薬を飲みたくないと咳を止めたい」、「牛乳を飲みたいと下痢を止めたい」、「熱があることと風呂に入りたい(入れたい)」ということになります。 「二兎を追うもの…」は、どこから来るのでしょう。一つはお母さん方の認識の不足です。しかしお母さん方だけの責任ではありません。小生も自分の母親から、「下痢の時は牛乳は飲まないように。消化の良いもの、特にお粥がいい。」と言われ、また「熱があったら、お風呂には入らないこと」と教えられました。このようなことは、昔から語り続けられているはずです。一部のお母さん方では、その伝達が足りなかったのかもしれません。また、子どものわがままを受け入れ過ぎることも、原因の一つでしょう。「苦いから薬を飲みたくない」、「牛乳を飲みたいと泣く」、「熱があってもお風呂に入りたいと騒ぐ」となれば、受け入れたいと思うでしょう。「熱があるのに幼稚園に行きたいというけど、どうしたらいいでしょうか」の質問も、同じと考えていいかもしれません。気になる症状があり次の来院日を指定すると、「仕事で来れない」と言うお母さんもいます。これも同じわがままで、どちらが優先されるかは明らかです。
  正直なことを言えば、薬を飲まなくてもいいし、牛乳を飲ませても、お風呂に入れてもいいのです。ただその場合、一兎も得られないこともあるという認識が必要なのです。そして大事なことは、母親として後悔しないということです。厳しい言い方ですが、親としての責任がとれるなら、判断は自由なのです。極端な例ですが、輸血をしなければ救命できなくても拒否する宗教があります。医師として認めるつもりはありませんが、本人の意志であれば宗教の自由が優先されることがあります。「輸血を受ける罪の方が大きく、命を落としても教えを守る」。つまり後悔しなければ構わないのです。咳が止らなくても、下痢も治らなくても、風呂に入ったり幼稚園に行ったりして具合が悪くなっても、仕方ないと思えば問題はありません。しかし、ほとんどのお母さんは、咳や下痢を止めたいし、子どもの具合を良くしたいはずです。熱があるのにお風呂に入れて、ひきつけでも起こすようでは大変です。常識を無視して子どもの健康に被害が及ぶようであれば、虐待と言われても仕方がないことです。
  育児ではわがままへの対応は、とても大切なことなのです。少子化影響もあり、子どもは大切に育てられています。大切にすることと、わがままを許すということは違います。年齢によって、わがままへの対応は変わってきますが、子どもに悪影響を及ぼすようなわがままに対しては、我慢をさせることが重要なのです。この我慢を教えることが、しつけの一つです。「二兎を追うもの…」は、しつけに対することわざとしても、重要なポイントなのです。我慢が出来ずキレてしまう子どもが、増えています。適度の我慢は、キレる子どもを減らすかもしれません。よくお母さんに伝える言葉を一つ、「いつもわがままばかり通 していると、いつかキレて殴られるかもしれないよ」。
  どうしても二兎を追うのであれば、片方がだめでも後悔はしないという意識が必要です。情況に応じて優先順位 をつけ、何が大切なのか見極めることが必要です。「二兎を追うもの…」は、同時に二つのことを達成できないという意味においては、子育てだけでなく人生にも大変役立つ、ことわざです。そして最後に、わがまま(親と子)と、しつけについても、考えてみましょう。
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